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Barcarola de Tramonto
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俺は何の気無しに近くのカフェへ足を踏み入れた。昼前だからなのか、それとも別の理由があるのかは定かではないが、混雑とは程遠く、寧ろどちらかといえば閑散としている方だった。

 東京とはまるで正反対である。都会暮しの長い俺は既に喧騒には慣れ切っていたが、いつまで経っても好きになれそうにはなかった。だから、この静かさが寧ろ心地よかった。
 
 サンドイッチにブラックコーヒーを持ってテラス席へ移る。俺が日本にいた頃から朝食はずっとこんな具合だ。野菜も取れるし、なにより手軽だ。時間のない朝にこの手軽さはかなり重宝する。 

 サンドイッチをつまみながら、これからどうするかを考えた。はっきり言って別段やることもないからまた昨日みたいに街をふらつくだけ、ということになりそうな気もするのだが。
 
 ポケットから観光旅行に有りがちな地図を取り出した。今日はどこまで行こうか。どうせならもう少し遠出してもいいかもしれない。コーヒーを飲みながら暫く地図とにらめっこしていたが、それを折り畳むとコーヒーを一気に流し込み、店をあとにした。

 基本的に俺は無目的に出歩いたりはしない方だ。忙しいというのもあるが、正直面倒だというのが本音だった。決して付き合いが悪いというわけではないつもりだから、仕事以外は一切で歩かないというわけではない。
 
 ただ、何もなくその辺をうろつくのが好きになれない。その俺が一人でほぼ無目的に、それも異国をふらついていたのだから、よっぽど異常な心理状態なのかもしれない。

 今日もそれでいいかと思った自分もいたが、さすがにそれは飽きてくるので、今日は大人しく観光を決め込むことにした。






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あきゅろす。
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