Barcarola de Tramonto
4
思ったよりすんなりと帰路につくことができた。話を聞けば、案外宿に近いところだったらしく、特に道に迷うこともなくたどり着いた。
ベッドに身を投げ、天井を仰ぐ。職場の真っ白で無機質な天井ともアパートのそれとも違う、固い天井が目に入る。固いながらも、どこか有機的なそれに妙な安心感を覚えた。
天井を凝視しながら今日一日を思い起こす。宿を出て、何をするともなく街を歩いた、それだけだった。
「我ながら何とも中身のない一日を送ったものだ。」
無意識のうちに自分から嘲笑が零れた。同時に、それを悪くないと思う自分もいて、呆れたようにため息をついた。
「それにしても」
あの人影は一体なんだったのだろうか。体格からしておそらく女性だろうとは思う。一人であんな時間に一体何をしていたのだろうか。
いや、そもそも一人だったのか?そんな思考が幾度も宙をさ迷った。
普段はどうでもいいはずのことが今日はやたらと気になる。いつもならば特に気にとめもしない人影に気を取られ、あまつさえそれを追いかけようというのだから、俺をそれなりに知っている人間からすれば、何かあったのかと驚くだろう。
いや、俺自身自らの行動にひどく驚いている。何故あんな行動をとったのか、自分でも未だにわからない。
「異国の風にでもあてられたか。俺らしくもない。」
自嘲気味にひとりごちて、俺は目を閉じた。目を閉じてもなお、あの光景がどうにも焼き付いて離れなかった。
瞼の向こうが明るい。そう思ってゆるりと瞼を上げると、既に日は高く昇っていた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。日の高さからすると、おそらくはもう昼前なのだろう。
ゆっくり起き上がり、軽く身支度を整えると、遅めの朝食兼昼食を摂りに街へ出た。昨日もそうだったが、今日も雲一つなく晴れ渡っていた。風もさほどなく、出歩くのにはちょうどいい。
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