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Barcarola de Tramonto
9

「え、あ、いや、俺はいいよ。話題にできそうなものもないし、みんなの話聞いてるほうが楽しいし。」

この頃にはもう癖になっていた愛想笑いを浮かべながら言い繕った。いきなり振られたものだから、幾分引きつっていたのかもしれないが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「・・・ふーん。」

トモは不審な人物でも見るかのようなジトリとした視線を向けて睨んだかと思うと、興味を失ったのか、また話の輪に戻っていった。

 実際に話題を振れそうなものがなかったのかと問われれば、おそらく否、と答えただろう。何もなかったわけではないのだ。ただ、自分から話題を振るのは億劫だったのだ。いや、億劫というよりは、下手な波風を立てたくなかった、というほうがより正解に近いだろう。当たり障りがない方がうまくやっていけるということは十分に承知しているつもりだった。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、トモの方へ視線をやる。彼女のよく動く口。しゃべるたびにこれでもかというくらいコロコロと変わる表情。しまいには手の動きまで加わっていた。口でしゃべっているのか体でしゃべっているのかもはや判然としない、とさえ思えた。

 よくまあそんなに動かせるものだと、呆れ半分感心半分で見ていた。それと同時に、そんな風にコロコロと表情が変えられる彼女をほんの少しうらやましく思っている自分がいたことに気づいた。





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あきゅろす。
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