図書室の楽園 『残暑の中の独り言』 蝉たちの命の雄叫び、もとい、ただ騒がしく、耳障りな蝉の合唱が校舎を包む8月下旬。高校生になって1度目の夏休みがつい2日前に終わってしまった。 夏休みという「非日常」が長らく続けば「日常」に変わり、その間に染み込んだ生活習慣やら感覚はそう簡単に抜けるはずもなく、ましてや夏休み明け2日しか経ってなかったら尚更だろう。 しかし、そんなことは学校生活では言い訳にしかならず、学生は学校という「日常」を受け入れるしかない。 まあ、頭は分かっていても気持ちが納得しないということはよくあることで、学校の先生方もよく理解しているのだろう。授業中に安らかな寝息を立てる者がいたとしても注意しないのだから。 「なーんてな」 小さくそう呟きながら、俺、緒方唯人は窓の外へと視線を移した。 窓の外に広がるのは、こんな残暑残りまくりの暑さの中走りこみをする生徒の姿だった。 よくやるよな、なんて頭の隅思いながらその光景をただ眺める。そして、ふと思う。 いいな……。 俺は部活に入っていない。 中学の頃バスケ部に入っていた。けれど、高校に入ってからも続ける気にはならず、現在、俺は帰宅部だ。 そのため、夏休みの間は何もしていない。 まあ、友人がバスケ部だったり、部活から助っ人として呼ばれることがあったから体がなまることはなかったけど。 それでも、どうしてか部活をやっているやつの姿を見ていると羨ましく思う。 輝いてるっつーか、青春を謳歌してるっつーか。 上手い言葉は見つからないけど、何かに一生懸命にやっているのはいいな、と思う。 実際、自分もそうなりたくて探したりした。中学の時バスケ部に入っていたのはそのためだったりする。 けれど、結局俺は見つけられなかった。 バスケは俺にとってただの暇潰しにしかならなかった。 それでも続けていたのは、部活の雰囲気が好きだったのと、暇潰しでもバスケしか考えていないというのが心地よかったからだ。 でも、高校で続けなかったのは違う方法で見つけられないかという期待と、部活が終わった後に広がる虚無感をもう二度と味合わないためだ。 でもまあ、結局高校に入って今まで、そうしたものが見つけられてないけれど。 「はあ……」 俺は小さく息を吐いた。 考えれば考えるほど虚しくなる。 正直、虚しいのはご免だ。 少しでもそれが埋まるように、俺は蒸し暑い教室の中で行われる授業へと意識を集中させた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |