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朝の出来事

突然だが、私は、このド田舎から毎朝電車で学校に通っている。30分に一本という、なんとも少ない電車数だから、乗り過ごしたら大変なんだけど、

「はぁっ、はぁっ…!!っ…しぬぅ…!!」

案の定というか、朝が苦手な私は入学1週間目でとうとう遅刻をした。
ついさっきに家を出て駅へと走っている、100m25秒な私の全力疾走なんてたかが知れてるけれど、すれ違ったご近所さんたちは「あらアイリちゃん」「朝から元気ねぇー」なんて声をかけてくる。ご、ごめんなさい、今忙しいんです…!!なんて息が切れて言えないから、私はバックを持ってないほうの手をひらひらと振った。そうすれば「いってらっしゃい」と言って手を振りかえしてくれる、こういうあったかい所がこの町の好きなところなんだよね。

駅が見えてきたところで携帯をパカッと開く。表示された時間はいつも電車に乗る時間より30分程遅くて、私はどうしようもなく焦る気持ちを抑えられずに、その場でバタバタと足踏みをした。

「もうっ、どうしよう…!!」
「威勢が良いのが来たと思ったら、アイリちゃんじゃないかい」
「え、あ、おじさん…!!おはよう…!!」

バタバタと足踏みをしたまま声のした方を見れば、居たのはお隣さんのおじさんだった。田舎だから町のほとんどの人とは顔見知りであるし、とくにおじさんとは仲良しなのだ。昔より皺の増えた顔でにこりと笑い「アイリちゃんの制服姿はまだ見慣れないねぇ」と言って大きなゴツゴツした手で頭を撫でられる。
撫てくるから自然と足踏みが止み、おじさんを見上げる形で「私だってまだ着慣れてないよ」と言えば、そうだね、と返される。

「今日は遅刻かい?」
「ならないように急いでるの…!!」

小さなホームに入ってきた電車を見ながら言う。おじさんも会社に行くため、別の電車に乗るらしい。

「それじゃ、アイリちゃん。いってらっしゃい」
「うん、おじさんもいってらっしゃい」

ひらりと手を振って別れ慌てて電車に乗った。今日は空いてるなぁ、あ、そうか一本電車遅れたんだった、と苦笑をして、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をした。

しばらくして、駅に着いた電車から飛び降りて学校を目指して走った。
校門に入ったところで携帯を確認するともう時間は過ぎていて、自分の足の遅さを心底恨んだ。ぅう…あんなに頑張って走ったのに…!!
遅刻だと思った途端ふっ、と力が抜けてその場でしゃがみ込んだ。次には足の痛みが襲ってきて、あぁ、ローファーであんなに走ったから…
一度気づいてしまうと不思議なもので、痛みはどんどん増してくる。じわりと涙が浮かんだけれど、それは不意に話かけられたことで流すまでには至らなかった。

「よぉアイリ。こんなとこでなにやってんだよ」
「ユ、リ…」
「…どうした?」

涙目になっているであろう顔を隠すためにふるふると首をふった。
そうすればユーリは、だらんと地面にある私の手をとって、ぐいっと引っ張った。

「う、わっ」
「遅刻したくらいで泣くなよ」
「なっ、泣いてないよ!!……ユーリも遅刻?」
「まぁ、な」

引っ張られた際に自然とつないだ手を離す。
教室に行くため歩き出したユーリの隣に並ぼうと、私も歩きだすため、足をひょこりと前に出すと、ユーリが驚いたようにこっちをみたのがわかった。

「怪我してんのか」
「怪我、というかちょっと足が擦れただけ。あ、私歩くの遅いから先行って…きゃぁ!?」
行っていいよ、と言おうとしたけれどそれはぐるんと視界が45度回転したことで言えなくなる。

「言わなきゃわかんねーだろ」

そう言ったユーリの顔を下から見上げるかたちになったことで、自分の体制を把握した。
も、もしかして私お姫様抱っこされて…!!

「ユ、ユーリ!!下ろして…!!」
「黙ってろって。運んでやるから」
「ひ、え、こわい落ちる…!!」
「掴まっとけ、怪我してんなら言えよな」

手足をバタバタしてもユーリはお構い無しに歩みを進める。
何よりも恥ずかしさで頭が爆発しそうだった。ぅう…どうか誰も見てませんように…!!




「(恥ずかしいもうやだ消えてなくなりたい…!!)」
「(こいつちゃんと食ってんのか…?)」





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あきゅろす。
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