[携帯モード] [URL送信]
かわいいだけのひと




ドゥビシッ!



脛に走る鈍痛。
酒が残ったままの立ち稽古は辛い。
恐る恐る自分より僅かに低い目線を合わせると、突き刺さるキツい視線。冷たいというよりもはや痛い。




「…っとにさぁ、ふざけんなよ」
「……すいません」
「謝るぐらいなら噛むんじゃねえよ」


あー酒くせえ、と恭しく付け足すとさらに後頭部にスパーンと一発。
…頭はきつい!
容赦なくガンガンと広がる痛みにうぐっ、と思わず声が出る。

そんな俺を見てようやくにやりと口角をあげると、用は済んだとばかりにパイプ椅子に腰をおろした。



「五分以内」
「え」
「腹減ったからメシと飲むもん買ってきて」

牛丼がいーなーとか言いながら事務的な長テーブルに肘をつくその姿は傲慢そのもの。
急な展開に突っ立ったままだった俺を見てまた表情が尖っていく。


「なに?二日酔いで遅刻してミスりまくりの春日さん、なんか言いたいことあんの?」

「…ありません」
「ならいーけど」



反論出来る訳もなく、自分でも驚くほどに弱々しい声で告げてから、古びたドアノブに手をかける。
行ってきます、と呟いて振り返ると視線が絡んだ。




「ばあーか」


そう吐き捨てた顔はなんとも満足げで、本来持つ小動物のような愛らしさを満面にした女王様がそこにいた。

自覚しているのか、いないのか、今日もこの笑顔にやられて俺は財布片手に部屋を出るのだった。









かわいいだけのひと



(中身の魅力に気付くのは)
(もう少しあとの話)



―――――――――――――
女王様わかばやし

お題元:確かに恋だった




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!