予想外の綿菓子*05
F l a v o r e d T e a
キミオモウ、
今から一週間前の放課後。
俺はひと気のない裏庭のベンチで腕を枕に眠っていた。
そろそろ咲きそうな花壇の花を見に行っただけで、寝るつもりはこれっぽっちもなかったんだ。
でも暖かくなってきた空気に誘われたのか、いつの間にか眠りに落ちていたらしく…。
晴渡の話しで一方的に俺のことを知っていた部長が「風邪ひくぞ」って起こしてくれたんだけど、さ。
何であんなこと口走ったんだろう。
いくら寝惚けてたって、肩を揺する部長に「にぃちゃ、うるさい…」はねぇよ。ほんと。
マジありえない。
兄貴のことは「兄貴」か「ナリ」って呼んでんのに。
「にぃちゃん」なんて可愛らしいことこの上ない呼び方をしてたのはせいぜい小学校低学年の頃までなのに。
なんであのタイミングで「にぃちゃ」。なんで相手が晴渡の先輩のバスケ部部長。
自分で自分を殴り飛ばしたくなる失態に今まで経験したことがないほど顔が熱くなるわ、大笑いしてる人が晴渡の先輩だってことに気付いて「やぇっ、ふほ!?」とかいう奇声を発するわ、晴渡には絶対内緒にして下さいと頭を下げたら面白いなと撫でられるわ、で。
もうほんと最悪だった。
番犬に向かないチワワがバスケ部員を見かける度に「せんぱーい!」って尻尾振りやがるから、今日までの一週間もずっと最悪だった。
顔を背けようとして部長と目が合った時、首輪とリードが心底欲しくなった俺は少しも間違ってない。
…はあ……。溜息が出る。
会いたくなかった、けど。連れて来ちまったもんはしょうがねぇよな。
「ぷ‥、ははっ…」
「もうっ、いつまで笑ってんすか! 部長! 笑いすぎっすよ!」
眉を吊り上げてぷんすか怒ってる晴渡は、そこら辺の美少女より何億倍も可愛い。
が。ほっといたら確実に昼休みが終わる。ってか食いはぐる。
俺の腹は可愛さなんかで膨れねぇ。
「晴渡、ボタン」
よこせ、と言う代わりに手を出すと、慌てた顔が振り返る。
「っ、はいこれ! 部長部長、シャツ脱いで下さい! 素早く! ネクタイとブレザーも!」
「はいはい。わかったから、引っ張るなって、こら」
なんつーか、高校生同士のやりとりには見えねぇな。
高一を中一に訂正したくなる。
もしくは久しぶりに会った叔父に遊んでとねだる小学生、か。
部長が制服を脱いでいる間に鞄から小さなソーイングセットを取り出し、針に糸を通す。
男子高校生が携帯するもんじゃねぇだろ!、と自分でも思うが、晴渡と付き合うなら必需品だ。
「悪いな、瀬戸(セト)。頼むよ」
「…いえ。こちらこそ、綿菓子がご迷惑をおかけしてすみません」
「‥綿菓子?」
「ちょっ、喜葉! それって俺のことじゃねえだろうな!?」
「該当者はお前しかいねぇよ」
「俺のどこが綿菓子なんだよ!?」
ふわふわした髪とかパーツ全部が可愛い顔とか。
舐めたら甘いんじゃねぇの?
「っ、はは! 綿菓子っ? いいな、綿菓子!」
笑い上戸か、この人。
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