F l a v o r e d T e a キミオモウ、 視線を元に戻すと、あるはずのない尻尾と耳をしょんぼり垂らした晴渡と目が合う。 そんな顔見せられたら説教する気なんて軽く吹っ飛ぶっつーの。 ていうか、鼻息を荒くして目の色を変える危ない輩がいるからやめなさい。 怒ってねぇよと言う代わりに綿菓子みたいな髪をぐしゃぐしゃ撫でてやれば、向かいの席に座るチワワはにぱっ、と笑顔に戻った。 「な、な、これ何ティー?」 「マロングラッセのミルクティー」 「マロングラッセ?! そんな紅茶もあんの?!」 「ああ、ミルクとよく合うんだ。マロングラッセそのものの香りがするだろ?」 「うん! って、マロングラッセかどうかはよくわかんないけど、ちょーいい匂いだし、おいしい!」 ただでさえきらっきらしてる笑顔が普段以上に眩しい。 そんなに気に入ったのか。晴渡、甘いの好きだもんなぁ。 でも。 「残りもらっちゃだめ??」 「だめ」 誰がやるか。 拒否した瞬間、至る所から突き刺さるような非難の視線が飛んできたが、そんなもん、知ったこっちゃねぇ。 「けち!」 「俺がフレーバードティー好きなの知ってるくせに、そういうことを言うわけか。…帰ったら淹れてやろうと思ったけど、やめた」 「え゛っ!」 「ケチはケチらしく独りで飲みます。全部」 「や、うそうそ! けちじゃない! けちじゃないですっ!」 にこりと作り笑顔を向けた俺に、晴渡は慌ててごめんなさい!、と謝る。 ばさばさ音が聞こえてきそうな睫毛、不安げに揺れる大きな瞳、透き通るような白い肌、きゅっと引き結ばれた桜色の唇。 よっぽどのサディストじゃない限り許してやりたくなる顔だ。 むしろ裁判官に有罪を言い渡された気分になる。 ほんと、お前は色んな場面で得してるよなぁ。 「喜葉……」 「冗談に決まってんだろ」 縋るように右腕を掴む晴渡の額に人差し指を当て、ぐぐっと押し戻す。 手のかかる弟みたいで可愛い、って思ってる俺が、お前を本気で突き放せるわけねぇっつーの。 言ったことないし、言うつもりもないけどな。 「っ、…夜、淹れてくれんの?」 「ああ」 淹れてやるから腕を放しなさい。いつまで掴んでるつもりだ。 「じゃあ、ソッコー帰る」 「馬鹿者。部活にちゃんと出て、後片付けもしっかりやって、普通に帰って来なさい」 現時点で今日一日、俺には注意が必要だけどな。 喜葉がミルクティー淹れてくれるから早く帰りたいんです!、なんてことをうっかり口に出されたら、俺の命が危ねぇんだよ。 お前、バスケ部員からどんだけ寵愛受けてると思ってんだ。 「はーい」 俺の胸中を知らない晴渡の暢気な返事に被さってチャイムが鳴った。 NEXT * CHAP |