F l a v o r e d T e a キミオモウ、 「えっ、うっそ、マジで!!?」 「嘘ッ!? 本物!?」 「噂では聞いたことあったけど、本当に??!」 「ちょっ、本人!? マジで本人!?」 中間考査最終日。 最後の試験が終わって、HRも終わって。 晴渡のように部活大好きな奴は教室を飛び出して部活へ行き、不真面目な部員や帰宅部の連中はそれぞれ好きな場所に向かい。静かになり始めた校内が、にわかに騒がしくなった。 きゃあだかぎゃあだかよくわかんねぇ悲鳴が聞こえるけど、一体何なんだ? 教室内に残ってた何人かも誘われるように出てったし。 こんなざわめきが起きるようなこと、この学園内にあったか?? 「喜葉!! 喜葉大変!! すごい!! 本物!!」 首を傾げながら鞄に手を伸ばした時、部活に走って行ったはずの晴渡が前のドアから飛び込んで来た。 真っ白な頬を柔らかな桃色に染め上げ、何やら随分と興奮しているらしい。 ちなみに部ジャーではなく制服姿のままだが、手はからだ。部室に鞄だけ置いてわざわざ戻って来たのか? つーか、本物って?? 「意味わかんねぇんだけど」 単語ばかりで何を言いたいんだかまったくわからない。 「見ちゃった!! 俺見ちゃった!!」 「だから、何を見たって、」 「マボロシの先輩!!」 「はあ??」 何だそれ。先輩に幻も何もないだろ。 海とか山に眠る財宝か。 「あれ、瀬戸知らないの?」 なに馬鹿なこと言ってんだ、という目で晴渡を見ると、その後ろから松岡が顔を出した。 「ペガサスとか、ユニコーンとか、フェニックスとか呼ばれてる三年の先輩のこと」 「…それ全部想像上の生き物じゃねぇの? どんな先輩だよ」 レア度MAXどころか現実に存在してねぇじゃん。 「もうっ! そんなことどうでもいいんだよっ!!」 「っ、おい、晴渡、」 「早く!! 先輩消えちゃうじゃん!!」 いや別に欠片の興味もないんだけど。お前だけで行けばいいじゃん、と言ってみるが、未だに興奮してるらしい晴渡の耳には届かなかった。 ていうか、俺の二の腕を掴んでずるずる引きずって行く晴渡には俺の意見なんてどうでもいいんだろうな。 晴渡が俺に見せたいと思ったから連れて行く。そういうことだ。見たいとか見たくないとかいう話じゃない。…この我儘姫め! くまくらさまだ くまくらさまだ くまくらさまだ くまくらさまだ 階段を下りて行くにつれて多くなる呪文のような囁きが名前なんだと、すぐには気付かなかった。 ちょっと離れた場所ではさっきの晴渡みたいに騒いでたのに、本人の傍では誰もが声を潜めて、しかも名前だけを囁き続けるなんて、一種のホラーじゃないのか。 二の腕を掴まれているせいで無理だが、決して近付くことなく、十数メートル先にいる先輩をじっと見つめる集団から一歩離れたくなった俺は、何もおかしくないはずだ。 「ね、喜葉、喜葉見える?」 「見える見える」 奥にある保健室の方に歩いてってるから後姿しか見えないが、すらりと伸びた手足に艶っつやの長い髪。それだけでもうすんげぇ美形なんだろうな、ってのがわかる。 当たり前だ。顔が良くなけりゃこんなに注目されるわけねぇし。 そう思いながら、内緒話をするように顔を寄せてきた晴渡に同じくらい小さな声で返した、その瞬間、 「――…」 熊倉先輩とやらが不意に振り返り、誰もが息を呑んだ。 NEXT * CHAP |