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予想外の綿菓子*01

F l a v o r e d T e a
 キミオモウ、


 俺の朝は少しだけ忙しい。

 六時ジャストに鳴る目覚ましで起きて、まずは洗顔と歯磨きを済ませる。
 次に薬缶を火にかけ、野菜と卵とパンで簡単な朝食を拵える。
 それを手拭きやカップと一緒にテーブルに並べた頃、丁度お湯が沸いて、実家から持ってきた自分専用のティーポットにお湯を注ぐ。

 そして、茶葉を蒸らしている間に隣室のドアを開け、すぴすぴと気持ち良さそうに熟睡している旧友を起こすのだ。

「晴渡(ハルト)、起きろ」

 鼻を摘まんで。

「…っ、ふが、」
「おはよう」
「んー……、おはよ!」

 呼吸の邪魔をされた途端、むくりと起き上がった晴渡は伸びをしてから俺を見上げ、にこっ、と笑った。

 普通なら怒るところなのかもしれないが、昔から俺はこの起こし方だし、本人曰く、布団を引っ剥がされたり足蹴りにされるよりは何億倍もいいらしい。
 …晴渡のおばさん、可愛らしい外見に反してびっくりするほど乱暴だからな。

 目覚ましの音では起きられないくせに、衝撃か何かで一旦目が覚めればてきぱきと動く晴渡の背中を見送り、リビングに戻る。


「なあ喜葉(ヨシハ)、今日の紅茶いつもと違わねえ? 変えた?」

 自力で覚醒出来ない晴渡を起こしてやるついでに朝食を作ってやり、そのまたついでに紅茶も淹れてやる。
 面倒だけど六時に起きたって帰宅部の俺には何もやることがないからな。
 ちなみに俺は朝は食べない派というか食べられない派だから、紅茶を朝食代わりにしている。

 もしゃもしゃという咀嚼音のあとに聞こえてきた問いに顔を上げると、カップに鼻を寄せている姿が見えた。

「‥ああ、キウイだよ。マスカットは昨日で終わったでね」
「ふーん。…これ、よくわかんねえな。マスカットはマスカットー!、って匂いだったけど」

 俺が言うまでマスカットの「マ」の字も出てこなかった奴の台詞とは思えねぇな。
 つーか、犬みたいにくんくん嗅ぐのはやめなさい。みっともないから。

「晴渡、のんびりしてたら時間なくなるでや」

 目を閉じてキウイの香りを堪能しながら言う。

 現在の時刻、六時三十七分。
 バスケ部の朝練が始まるのは七時だからまだ余裕はある。
 が、新入部員である一年は早目に行って準備を整えなければならないので、二三年のようにはゆっくりしていられない。

 上級生も当然部活開始時刻より早くに来るから、四十五分には着いてないと「遅い!」って怒られるって言ってたっけか。
 寮から体育館までは走って五分。ダッシュ決定だな。

「げっ‥、ごちそうさま! 今日もおいしかったです!」
「お粗末様でした。ちゃんと歯ぁ磨いてから行けよ」
「、わかってるって!」

 一瞬息を止めた理由は何だ。
 食器をシンクに運ぶ晴渡の背を睨みつける。

 どんなに時間がなくたって、歯も磨かずに登校するなんて許さねぇぞ。

 俺の殺気を敏感に感じ取ったらしい晴渡は慌てて洗面所に駆け込む。
 しょうがねぇな…鞄、持ってってやるか。


 六時四十分。
 超特急で歯を磨いた晴渡は鞄を差し出した俺に「サンキュー、愛してる!」と叫んで飛び出して行った。
 ほんと、朝っぱらから元気な奴だ。

 低血圧の俺には到底真似できない。





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