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予想外の放課後*13

F l a v o r e d T e a
 キミオモウ、


「うむむむむむ」

「ぐぬぬぬぬぬ」

「ふぎぎぎぃ、った!」

 問題集にこれでもかというほど顔を近づけている晴渡の後頭部を、しゅばんっ、と勢い良く引っ叩く。

「いったいじゃん! 喜葉!」
「痛いじゃねぇよ」

 人間だか動物だかわからないような唸り声あげやがって。
 全然全くちっとも集中出来ねぇじゃねぇか。
 十分以上見逃してやったことに感謝しろっつーの。

「だって、わっかんねーんだもん! しょーがねーじゃんもん!」
「無理やりもんつけんな。可愛くねぇよ」
「可愛かったら許してくれんの?!」
「お前の可愛さ如きでテストの点が上がるのか?」

 はんっ、と嗤えば、白く艶やかな顔が大袈裟に歪んだ。

「ひどっ! 冷酷! 人でなし!! 血の涙もない悪魔め!!」
「煩い。つーか人間だって『血の涙』はねぇよ」
「!!?」
「あー、確かに。それを言うなら『血も涙もない』だよな」

 シャーペンを回しながらのんびり言った松岡に、唇をきゅっと結んだ晴渡は抗議の目を向ける。
 多分、みなまで言うな!、傷を抉るな!、って文句が込められてるんだろう。
 でも、そこら辺の男共になら効果抜群のその顔は、俺だけでなく、松岡にも効果がない。

「瀬戸ってテキトーに流してるように見えて、案外ちゃんと聞いてんだ。さっすがー」
「!? お前っ、それどういう意味だよっ?!」
「? そのまんまの意味。ちゃんと晴渡の相手してて凄いなーって」
「…っ!!」

 俺には無理だわー、と言うニュアンスで告げられた言葉に、晴渡は目を見開いて言葉を失う。
 松岡に悪気がないことは良くわかってるが……相変わらずさらっと言うんだな。
 凄いのは俺じゃなくてお前の方だよ。
 俺に「瀬戸って結構可愛いよなー」って言ったり、晴渡のことを「我儘姫」と言ったりする強者というか変わり者は、この学園にはお前しかいないと思う。

「‥‥よ、喜葉…っ」
「情けねぇ顔してんじゃねぇよ。集中しろ、集中。出来るだろ?」

 松岡の発言にショックを受け、呆れた?怒ってる?、と不安の詰まった瞳で見上げてくる晴渡の頭を少し乱暴に撫でる。
 勉強が苦手なのも理解出来ずに唸るのも、今に始まったことじゃないから慣れてるし。
 こんなことで愛想つかしてたら晴渡の幼馴染なんてやってられない。

 怒ってねぇよと安心させる為に笑みを向ければ、晴渡は安堵の息をついた後、嬉しそうに笑った。

「…うん」

 あー……。ほんと、こういう素直なところが可愛いんだよな。
 母性本能をくすぐる、っつーの?
 甘やかすのはよくないし、自分で出来ることはやらせなきゃいけないんだけど。
 手を貸したくなるっていうか、助けたくなるっていうか。
 いや、そもそも俺は男なんだけども。
 松岡が俺たちのやり取りを見てぼそっと呟いた「お母さん…」て一言は無視だ無視。


 ――そういや、アイツどうしてんのかな。

 問題集の文字を追いながら頭に浮かんだのは、見た目はクマなのに中身はリスっぽい庭師。
 晴渡と違って図体がデカイのに、晴渡のように小動物を彷彿とさせる奴。

 テスト勉強に力を入れるようになってからは一度も裏庭に行ってないから、花壇が今どうなってるのかも知らない。
 まあ、あんな所までわざわざ花を見に行くのは俺ぐらいだから、第二の俺が出る心配はないだろうけど。
 水を撒くことに失敗し、紅茶を淹れることに失敗し、クッキーの箱をおろすことに失敗し…。
 あんなんで普段の生活をきちんと送れているのか、すこぶる心配だ。
 というか、不安だ。不安要素しかない。

 ああいうのを生活能力皆無、って言うんだろうな‥‥。
 年上に対して失礼極まりない言い方だが、おっちょこちょいとか間抜け、ってのとは違う気がする。
 でも、花壇のキンギョソウは綺麗に咲いてたし、あの部屋も片付いてたし…案外なんとかなるものなのか?
 見ず知らずの俺が心配しても仕方ないけど。

 とにかく、中間考査が終わったら行ってみよう。紅茶を淹れに。


「瀬戸、この問題わかる?」
「どれ? ああ、この問題ならこれに似たやつが載ってて、解説が……」


 全力で褒めてくれた、アイツの所へ。




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