F l a v o r e d T e a キミオモウ、 今のところ敵意や悪意を向けられたことはないが、油断は禁物だ。 ふとした瞬間、何かのきっかけで嫉妬が凶器に変わるということは十分にありえる。 …破格の待遇を受けている状況で本当によくしてくれているバスケ部員を疑うなんて、自分でも嫌な奴だなと思うけど。 覚悟を決めずに参加している後ろめたさの所為か、二三年生に対しては一歩引いてしまう。 打ち解けようと踏み出した一歩分、常に俺が下がって一向に距離が縮まらないんだから、内心不愉快に思っていてもおかしくはないだろう。 結局、俺の弱さだ。 俺の弱さが原因で、俺はバスケ部員と打ち解けることが出来ない。 俺の弱さが原因で、俺はバスケ部員の優しさを信じることが出来ない。 「―――…、はあ…」 自己嫌悪しても仕方ない、か。 焦って解決する問題じゃねぇし。 「‥‥大丈夫?」 「、え?」 「困った、ある? 暗いから、顔。困ってる、見える。」 突然聞こえて来た声に驚いて顔を上げれば、心配そうに俺を見つめている男がいた。 いや、ビン底眼鏡の所為で目なんか全然見えねぇんだけど。 声色と言葉で俺を心配してるのがわかる。 「大丈夫。困ってなんかねぇよ」 思考の海に沈んで男の存在と今いる場所を忘れていた俺は、謝罪と感謝の意味も込めて笑顔を向けた。 「ッ、…本当? 困ってるあることなら、言って、オレ、協力する。何でも。」 「大丈夫だって。プリント取りに校舎に戻るだけだから」 「‥校舎? 戻る、の? 校舎、今から?」 「んー、そうだなぁ……」 もう四時半過ぎてるし、あんまり遅くなると教師が見回り始めるし。 今のうちにさっさと取って来るか。 別に教師に見つかったってマズくはねぇけどさ。 紅茶を飲み干して御馳走様でした、と手を合わせる。 「……行く、の?」 「ん? ああ。のんびりしてると嫌になりそうだから」 ていうか、うっかり忘れて寮に帰る気がする。 紅茶美味しかったなー、クッキーも美味しかったなー、って満足しながら部屋で寛いで、晴渡が帰って来た瞬間、「あ、」って思い出す可能性大だ。 「…、………」 ブレザーは手に持って帰ればいいか。濡れて色が濃くなってるから着たら目立つだろうし。 「っ…、……」 最後にもう一度タオルでとんとん叩いたブレザーを左手に持ち、右手で鞄を掴んで立ち上がると、何故か男が焦ったように腰を浮かせた。 僅かに開いた口が何かを言いたそうにしている気がして、促すように首を傾げる。 「? どうかしたか?」 「帰っ、‥。…もう、来な、い?」 「え?」 「もう、ここ、来ない?」 ………えー、と? これは、何だ。引きとめられてるのか? いやいや違う。これはまた来てほしいって言われてるんだ。…多分。 「きみ紅茶好き。ここ、いっぱいあるから。紅茶、何でも、たくさん。オレ、また飲みたい。美味しいの好き、から。ほしい。」 「…………」 「…だめ? 来る、ない? いや?」 「…………」 だめなわけでも、来られないわけでも、いやなわけでもないけど。 返答に困って下を向く。 …罰ゲームかこれは。 言葉がちゃんとした文章になってない分、伝わってくる気持ちっていうか…この場合はむしろ情熱か? とにかく、俺にまた紅茶を淹れてほしいっていう想いがすんげぇ強くて、どうやって受け取ったらいいのか、正直戸惑う。 「…ごめん。オレ、困らせた。」 「っ…、違う。困ってない」 「、ほんと? きみ困らせた、違う?」 「違う。全然困ってない。…来週から試験期間で暫く来られないだろうから、何て返事すればいいのか、考えてただけだ」 「‥よかった。」 ほっと息を吐く姿に罪悪感を覚えた。けど。 褒められ過ぎて困ったなんて、言えるはずがなかった。 NEXT * CHAP |