F l a v o r e d T e a キミオモウ、 「……紅茶好き?」 唐突だな、っつーか、それさっきと同じ質問じゃねぇ? あ、さっきは紅茶嫌い?、って訊かれたんだっけか。 「‥好きだけど」 「じゃあ、これ。これに食べてみて。きっと美味しいから、気に入る。」 自信満々に指差された場所のクッキーを摘み上げ、そのまま口に放り込む。 「!」 鼻に近づけて匂いをかがなかった。だから気付かなかった。 これ、紅茶のクッキーだ。 しかもちゃんと味がある。 「………美味しくない? だめ?」 「、ははっ、…」 さっきの自信はどこへやら。 縮こまって首を傾げる男に、俺は思わず笑い声を上げた。 「…??」 「そんな顔すんな。美味しいよ」 「! ほんと?」 ぱぁあっ、と明るくなった男に頷きながら二枚目に手を伸ばす。 うん、マジで美味い。 普通、紅茶のクッキーは香りだけで味はあんまりしないんだけど、これはちゃんと紅茶の味がする。 高級洋菓子店の成せる業か…。 庶民育ちの俺は市販品で十分満足出来るから別に不満はないけどな。 「……ん?」 この部屋に来るはめになった理由も忘れて暢気に紅茶を飲んでいたら、ポケットの中で携帯が震えた。 「‥え、晴渡??」 今度は何だ。何が見つからないんですかマイマザー。 そう思いながら開いた画面に表示されていたのは、母さんじゃなくて晴渡の名前だった。 まだ部活中じゃないのか? 「もしもし? 晴渡?」 『あっ、喜葉ぁー? 今どこ? まだ裏庭?』 「、…部活終わったのか?」 そうだけど、と返事をしそうになったが、アリーナの窓から見下ろせることを思い出して話しを逸らす。 美術室じゃないここをどういう風に説明すればいいかわからないし、ここに入った理由も訊かれたら面倒だ。 『まだ。今ミーティング終わって準備してるとこ』 「‥どうかしたのか?」 『いやー、うん、どうかしたっていうか、喜葉くんに頼みたいことがあるっていうか?』 猫撫で声を出し始めた晴渡に気持ち悪いなと思いつつ、先を促す。 「何だよ、さっさと言え」 『俺の机からプリント取って来てください! 今日現国の時間に配られたやつ!』 「現国…? ああ、運動部の奴らが絶対終わらねぇ、とか叫んでた三枚のプリントか」 一枚目は単純な漢字練習だからすぐ終わるけど、二三枚目は四字熟語の意味を調べて書かなきゃいけないから時間かかるんだよな。 部活で疲れた後にやりたくないなら昼休みにやっときゃいいのに。 配られたプリントを見てぎゃーぎゃー騒いでた奴らは多分、未完成のまま提出して減点されるんだろう。 『そうっ、それ! さっき松岡(マツオカ)と量多すぎだよなーって話してたんだけど、鞄見たら入ってなくてさ。なっ、頼んでいい?? もう部活始まるし、終わってからだと校舎閉まってるし、』 「はいはい、頼まれてやるからさっさと準備を手伝いなさい」 『サンキュー、喜葉! 愛してる! じゃっ!』 「………あの馬鹿」 バスケ部員がいるところでおっそろしい台詞吐くんじゃねぇよ。 NEXT * CHAP |