F l a v o r e d T e a キミオモウ、 ビン底眼鏡の前で手を振ってみたら、やっと反応した。 母音ばっかで文章になってねぇけど。 大丈夫か、コイツ。 「どれを取ろうとしたんだ?」 「…こ、れ。クッキー。」 お茶請けにクッキーか。優雅だな。 「じゃあ他のは仕舞っていいんだな?」 「…うん。いい。あ、やる、やる。」 「ん?」 指差されたクッキー缶以外を片付けようと腰を上げたら、シャツの裾を掴まれた。 やる、って。あれか。文字通り、自分がやる、って意味か。 「いいよ。俺がやるから」 「でも、ちらかしてから、オレ。オレしまう。」 「アンタがやったらまた落とすかもしれないだろ」 ていうか、さっきの衝撃で結構割れたよな…? クッキーの他にどんなお菓子が入ってるのか知らねぇけど。 「………そう、だね。ごめん。」 申し訳なさそうに俯くな。あからさまに落ち込むな。ここに居座られたら邪魔だっつーの。 デコピンを喰らわせると、男はびっくりしたように顔を上げた。 「責めてるわけじゃねぇよ。アンタは俺の淹れた紅茶を飲んでればいい、って言ってんの」 「…え、」 「ほら、クッキー。食べるんだろ?」 「…うん。」 缶を渡したら「きみも。」と言われたから、わかった、と頷いて頭を撫でてしまった。 ……や、ほんと、見た目に反して小動物っぽいんだって。 外見クマでも中身リスなんだよ。 丁度いいところに頭あったし。 「紅茶、凄く美味しかった。今まで、一番、飲む中で。美味しかった。」 片付けを終えて自分の分の紅茶を淹れていた俺は、傍までやって来るなりそう言った男に、一瞬、フリーズした。 紅茶が…、紅茶がなんだって? 脳に届いた言葉を処理するのに時間がかかる。 「‥‥お、美味しかった、のか?」 空になったティーポットを置いて振り返る。 「美味しかった。美味しかった。全然違う、オレが淹れたのと。同じに思えない。」 微妙な表情をする俺を見て何を勘違いしたのか、男は力強く肯定し、嘘じゃない、本当に美味しかった、と何度も繰り返した。 …やめてくれ。恥ずかしすぎる。 何の罰ゲームだこれ。 淹れるのが上手いとか美味しいとか、褒められたことは何度もあるけど、こういう風に一生懸命褒められたことはないんだよ。 「そ、そうか。そりゃ良かった。まだ飲むなら新しく淹れてやるけど」 恥ずかしさを誤魔化すように背を向けて早口でそう言うと、男は慌ててカップをとりに戻った。 ……お前が淹れた紅茶はそんなに不味いのか。山ほど茶葉があるのに。 NEXT * CHAP |