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予想外の放課後*10

F l a v o r e d T e a
 キミオモウ、


 ビン底眼鏡の前で手を振ってみたら、やっと反応した。
 母音ばっかで文章になってねぇけど。

 大丈夫か、コイツ。

「どれを取ろうとしたんだ?」
「…こ、れ。クッキー。」

 お茶請けにクッキーか。優雅だな。

「じゃあ他のは仕舞っていいんだな?」
「…うん。いい。あ、やる、やる。」
「ん?」

 指差されたクッキー缶以外を片付けようと腰を上げたら、シャツの裾を掴まれた。

 やる、って。あれか。文字通り、自分がやる、って意味か。

「いいよ。俺がやるから」
「でも、ちらかしてから、オレ。オレしまう。」
「アンタがやったらまた落とすかもしれないだろ」

 ていうか、さっきの衝撃で結構割れたよな…?
 クッキーの他にどんなお菓子が入ってるのか知らねぇけど。

「………そう、だね。ごめん。」

 申し訳なさそうに俯くな。あからさまに落ち込むな。ここに居座られたら邪魔だっつーの。

 デコピンを喰らわせると、男はびっくりしたように顔を上げた。

「責めてるわけじゃねぇよ。アンタは俺の淹れた紅茶を飲んでればいい、って言ってんの」
「…え、」
「ほら、クッキー。食べるんだろ?」
「…うん。」

 缶を渡したら「きみも。」と言われたから、わかった、と頷いて頭を撫でてしまった。

 ……や、ほんと、見た目に反して小動物っぽいんだって。
 外見クマでも中身リスなんだよ。
 丁度いいところに頭あったし。


「紅茶、凄く美味しかった。今まで、一番、飲む中で。美味しかった。」

 片付けを終えて自分の分の紅茶を淹れていた俺は、傍までやって来るなりそう言った男に、一瞬、フリーズした。
 紅茶が…、紅茶がなんだって?
 脳に届いた言葉を処理するのに時間がかかる。

「‥‥お、美味しかった、のか?」

 空になったティーポットを置いて振り返る。

「美味しかった。美味しかった。全然違う、オレが淹れたのと。同じに思えない。」

 微妙な表情をする俺を見て何を勘違いしたのか、男は力強く肯定し、嘘じゃない、本当に美味しかった、と何度も繰り返した。

 …やめてくれ。恥ずかしすぎる。
 何の罰ゲームだこれ。

 淹れるのが上手いとか美味しいとか、褒められたことは何度もあるけど、こういう風に一生懸命褒められたことはないんだよ。

「そ、そうか。そりゃ良かった。まだ飲むなら新しく淹れてやるけど」

 恥ずかしさを誤魔化すように背を向けて早口でそう言うと、男は慌ててカップをとりに戻った。

 ……お前が淹れた紅茶はそんなに不味いのか。山ほど茶葉があるのに。





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