F l a v o r e d T e a キミオモウ、 遣いたくない、ってゆーわけでは決してなくて、遣う意味がなさそう、ってゆーの? そんな感じ。 よし。コイツ、タメ語決定。 学校に雇われてる庭師みたいな奴なら年上に違いないんだろうけど、兄貴や晴渡と同じにおいがぷんっぷんするからな。 独り頷いた俺はネットの中身を丁寧に缶に戻し、動かない男の手から引っこ抜いたスプーンで必要な分の茶葉を入れ直した。 「お湯は?」 「…これ。」 「? ああ、電気ポットか」 男が指差した場所にある何かを見る為に少し身体をずらすと、銀色の物体が見えた。 どうりでコンロの上に薬缶がないわけだ。 寮の部屋に欲しいな。 俺は五リットルも入るらしい電気ポットからティーポットにお湯を注ぐと、それを置いて小さな戸棚に目をやった。 本当は自慢のコレクションとかを展示する為に作られたものなんだろうが、中には統一性のないティーカップやらマグカップやらが雑然と並んでいる。 「どれ使ってもいいのか?」 「………………うん。」 長ッ! なっが!! そのたった二文字を口から押し出すのに十秒近く沈黙する必要がどこにあるんだ。 目が合ってるのにちっとも反応しねぇから聞こえなかったのかと思ったじゃねぇか。 ‥や、ビン底眼鏡だからわかんねぇんだけど。顔の向きは絶対合ってた。 昔の蛍光灯みたいに反応が鈍い奴だなと思いつつ、戸棚から取り出したティーカップにフレーバードティーを注ぐ。 その途端、強くなる香りに思わず頬が緩んだ。 俺が買ってるのと同じメーカーだしマンゴーがメインの種類はまだ飲んだことないから、今度コレ頼も。 「ん」 あ、そうだ。マロングラッセもまた頼んどかないとな。 晴渡の奴が珍しく自分から淹れてくれってねだるくらい気に入ってるやつだから。 つーか、何で俺の手はカップを差し出したまま宙に放置されなきゃなんねぇんだ。 「‥‥飲みたかったんじゃねぇの?」 受け取る気配を見せずに固まっている男を睨みつける。 まさか他人の淹れたものは飲みたくないなんて言うんじゃねぇだろうな。 「…え、あ…うん。飲みたい。飲みたい。けど。」 「けど、何だよ」 「……きみ、の。それ。」 「………は?」 「……寒い、違う? オレ、水かけちゃったから。」 タオルを受け取った時にも思ったけど、コイツ、多分帰国子女だ。 イントネーションと喋り方がちょっとおかしい。 俺も訛ってるから抑揚に関してはコイツのことおかしいって言えないけど。 もしかして純日本人じゃないのか? ほっかむりの白タオルに負けないくらい肌白いし。こういうのを白皙って言うんだよな。 って、今はそんなことどうでもいい。 「俺に淹れてくれるつもりだったのか‥?」 「…うん。」 呆然と問う俺に男はコクリと頷く。 水ぶっ掛けた相手にタオル渡しただけで給湯室に向かうくらい紅茶が飲みたいんだと思ってた。 …少し考えればわかるのに。馬鹿か俺は。 「ごめん、その、…」 「…紅茶嫌い?」 「や、そうじゃなくて…、ありがとう」 勘違いしてた自分が恥ずかしい。 NEXT * CHAP |