F l a v o r e d T e a キミオモウ、 特別棟の一階は美術室、二階は図書室、三階は音楽室。 確か入学時に貰ったパンフレットにはそう書いてあった。 図書室は寮にあるやつの方が大きくて漫画も置いてあるし、美術室と音楽室は選択授業でそれをとらない限り行くことがないから縁のない校舎だなぁ、と思った記憶がある。 だから俺が男に続いて潜ったアルミドアの奥には絵の具臭い美術室があるはずなのに。 なんだ、ここ。美術の「び」の字すらねぇよ。 「……タオル。ソファー座って。」 「‥、ああ」 予想外の内装にきょとんとして上がり框の上で立ち止まっていた俺は、どこからかタオルを持って戻ってきた男の台詞で自分の状況を思い出した。 下半身はあんまり濡れてねぇけど、上半身は見事にびっしょ。マナーの悪い車に水ぶっ掛けられた時の逆の濡れ方だ。 …綺麗な水道水で良かったって思っとくか。冬でもねぇし。 ブレザーと鞄をローテーブルに置いてソファーに腰を下ろし、バスタオルで顔や髪の水気を拭く。 めんどくせぇけど、ブレザーは帰ったらハンガーにかけてドライヤーだな。 自然乾燥は臭くなる。 つーか、このバスタオル柔らかすぎじゃねぇ? 柔軟材のCMに使えそうなほどふわっふわしてんだけど。超気持ちいいんだけど。 新品だってこんなにふわふわしてねぇよと感動しつつ、俺は改めて室内を見回した。 天井まで伸びる本棚、クローゼット、向かい合うように置かれたソファー、ローテーブル……さっき男が入ってったあの奥は給湯室か何かか? 美術の「び」の字を掠りもしないここは当然美術室とは全く関係ない部屋で、特別棟の一階には美術室の他にもう一つ、パンフレットには載っていない教室(?)があったってことなんだろうけど。 アパートの一室のような内装はなんなんだ。 部室棟ならまだしも、ここ、校舎だぞ。 つーか位置的に考えて、廊下に繋がるドアは背の高い本棚の後ろじゃねぇの? 何で堂々と塞いでんだよ。 「……もしかしてここ、庭師の休憩所みたいなもん…、あ?」 バスタオルに包まっていた俺は突然耳に入り込んできた音に息を止め、ソファーから背を離した。 ボスッ、ガンッ、カラカラ…――って、今、確かにそんなような音が鳴ったよな?? 脳裏に「ゲッ!!」と叫ぶ晴渡の姿が浮かぶような、不穏な音がしたよな?? 途轍もなくいやぁな予感がして男が消えた奥へと向かった俺は、おっちょこちょいの晴渡を彷彿とさせる光景を見た瞬間、思わず溜息と共に言葉を押し出していた。 「…何やってんだよ……」 「!」 ピクリと肩を動かした男の足元に転がっているのは、銀色の缶。 茶葉は見えないが甘酸っぱい香りから察するに、フレーバードティーの缶だろう。 傍まで歩み寄った俺は缶を拾い上げ、男の目の前に置いてあるティーポットを覗き込んだ。 案の定、ネットにはぎっしりと茶葉が詰まっている。むしろティーポットに茶葉が詰まっている。 ネットなんて少しも見えない。 スプーン持ってるくせに中身全部を空けちまう奴なんて、晴渡以外にはいないと思ってたんだけどな。 「これ、乾いてるんだろ?」 ティーポットを指差しながら訊くと、男はコクリと頷いた。 …うん。なんかもう、心の底から敬語を遣う気がおきねぇわ。 NEXT * CHAP |