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硝子に罅が入る時刻。




「寮のパソコンって、カスタマイズしてもいいのか?」

「うん。自分の好きなソフトを買ってインストールするのも、周辺機器を増やすのも自由だよ。進級して部屋が変わる時に初期設定に戻せばいいから、みんな結構好き勝手に使ってるみたい」

「…ってことは、高杉はあんまりいじってないんだ?」

「えっ? あ、うん。‥俺、パソコンって壊しちゃいそうで苦手なんだ。本読んでる方が楽しいし。ツッキーは詳しいの?」

「んー…、どうだろ。分解とか組み立てが出来る奴に比べれば全然詳しくないけど、日々の生活に困らない程度の知識はある‥と思われる?」

 眉を顰めて首を傾げた俺に、高杉がぷっ、と噴き出す。

「ツッキー変なの。自分のことでしょ? って言うか、その程度の知識なら俺にだってあるよ?」

「え、あるの? 調べ物の宿題が出たら、ちゃんとインターネットで調べられる? 全部人差し指で押したりしない??」

「…ねぇツッキー。俺の勘違いじゃなければ、今、物凄く貶されたような気がするんだけど?」

「いやだわ高杉さん。ハードカバーの本を山のように持っていらっしゃる貴方を貶すだなんて…。あたくし、ちょびっと心配しただけですわ」

「どこが心配? その口調が既に貶してるよね? 馬鹿にしてるよねっ??」

「駄目ですわ高杉さん。そのような怖いお顔をされていては、王子様に気に入って頂けません。いつものように微笑んで愛らしさを振り撒いて頂かないと、あたくしの立つ瀬がありませんのよ?」

「……どんな設定?」

 破茶滅茶な設定。





神様は悪戯に夜を照らし 09





「あれ、まだ制服なの?」

「ああ、ちょっと娯楽室に行こうと思って」

「えっ、今から? 気をつけてね?」

「おう」

 寮の外に出るわけじゃないし、高杉と違って誘拐されそうな愛らしい顔をしてるわけでもないから、気をつけるようなことなんて何もないと思うけど。

 ついて行こうか?、と心配そうに本を閉じた高杉に大丈夫だと笑い返して部屋を出る。

 二階分下りるだけなのにエレベーターを使うのは…うん、じじくさいよな。

 健康の為にも階段で行こう。

 二十三時を回っている所為か、寮内はひっそりとしていた。

 食堂は二十一時半がラストオーダーで二十二時には完全に閉まり、大浴場も二十三時に施錠される。

 コンビニは二十四時までで談話室Tと娯楽室は基本的に開けっぱなしらしいが、この時間にうろつく生徒なんて滅多にいないんだろう。

 明日も授業だし。

 ドアを引いて娯楽室へ入ると、スイッチはどこだろうかと探す前に電気がついた。

 …まあ、これくらいは普通デスヨネ。

 別に驚いてなんかいませんヨ?

 防音設備バッチリのお陰ですんごく静かだから突然ついた灯りに心臓が跳ねたなんて、そんなことは全然ありませんヨ?

 消し忘れや誰かがいることに気付かずに消してしまうということを防ぐ為には、やっぱりセンサーが一番ですワ。

「……特注品か」

 奥のブースで俺を出迎えたのは、空飛学園のエンブレムが刻まれた、やたらと綺麗でハイテクチックな形をしている公衆電話だった。

 この学園でお金の代わりに使われているものがIDカードであることを考えれば、特注品が置かれていることに疑問を抱く理由はないが、携帯電話の出現で使用頻度が落ちたはずのものにまで一定ライン以上のものを要求するのはいかがなものかと思う。

 電話としての役割をきっちり果たしてくれるなら文句は言いませんけどね。

「…公衆電話なんて、使うの四・五年ぶりだわや」

 万能IDカードをテレホンカードのように差し込み、記憶の中にある番号を押す。

 間違ってたらドンマイだ。俺は悪くない。


 プ ル ル ル ル プ ル ル ル ル  プ ル ル ル ル


『月夜っ!!?』

 誰も出ないなら出ないで別にいいけど、全然違う人が出たら気まずいよなー、遅い時間だし。

 なんて、どうでも良さげに考えていた俺だったが、どうやら十一桁の番号は間違っていなかったらしく、三コールで相手が出た。

 鼓膜を突き破るかのような馬鹿でかい声で。

 俺は難聴のじーさんかコラ。

「この若さで耳遠くなったらどうしてくれんの。治療費と慰謝料請求すんぞ」

『遅ェ!! もう十一時半になンだぞ!?』

「いや、俺の話聞けよ。っつか、十一時過ぎ頃になるって送ったじゃん」

『携帯したい時に携帯出来なくて何が携帯電話だー!!』

「‥切っていい?」

 人の話を聞かずに叫び続けるこの馬鹿は俺の中学時代からの友達で、名前は伸太(シンタ)。

 言わなくても大体想像つくだろうけど、「のびた」が渾名です。

 見た目も性格も全然似てませんが。

『ごめンなさい俺が悪かったです切らないでください』

「ほんとにな」

『っ、ごめンて月夜! マジごめンなさいッ!』

「伸太くんてば冷たいわよねー。ケー番覚えてた俺に愛の一つも囁けないのかしらー」

 俺の携帯は現在、真っ黒な画面しか提供出来ないアウチな状態を地道に継続している。

 単なる電池切れだから充電さえすれば使えるんだが…、肝心の充電コードが行方不明じゃどうしようもないだろ?

 いや、本当に。未発掘じゃなくて行方不明の消息不明。

 引越しのドタバタでどこかへ紛れ込んでしまったのか、引っくり返したダンボールからは出てこなかった。

 だから携帯にメールを貰っても見られない、ってことをパソコンのメールで伝えたんだが、伸太くんがメールじゃなくて電話しろ!、って返信して来やがったので、こうして寮内の公衆電話からわざわざ伸太くんの携帯に電話をかけているわけなんですよ。

 メールに自分のケー番を書くという当然の義務を見事に忘れて下さった伸太くんの代わりに、十一桁の番号を何とか思い出して、ね。

『世界で一番愛してるー!!』

「オリジナリティーに欠けてんな。ありきたり過ぎ」

『ひどっ!!』

「まあいいや」

『えっ、いいの!?』

 いいのいいの。関係ない話しはさっさと終わらせましょ。

 俺は何時に寝ても目覚ましが鳴れば起きられるけど、お前はしっかり寝ないと時間通りに起きられなくて朝練に遅刻するんだから。

「メールじゃ駄目で、わざわざ電話させてまでしたかった話しってのは何なんですかね?」

『えー、……月夜、その質問はずるくねェ?』

「は?」

『だってさァ、日曜まではフツーに遊ンでたのに、朝起きたらいきなり転校することになりましたとかいうメール届いてるし。別れの挨拶もない上に暫らくは会えないとか言われたら、せめて声聞きたくなンだろ』

「伸太‥、…」

 俺は予想外の台詞に言葉を呑んだ。





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