「でっか……」
開いた口が塞がらない、って言葉は、きっとこういう時に使うんだろう。
呆れ返る様、呆気にとられる様って意味らしいけど、まさに俺の心境はそんな感じだ。
親父の運転する車で四、五時間かけて来た場所は学校のはずなのに、俺の眼前に広がるのは某遊園地も真っ青のワンダーランド。
正直、学校ですと紹介されても俄かには信じ難い。
あ、若しかして俺は夢を見てるのか?
なんて女々しい現実逃避をしてみても、正門の脇に堂々と並ぶ文字がそれを粉々に打ち砕く。
「…空飛(ソラト)学園…」
澄んだ山奥にいっそ場違いなほど立派に聳え立つのは、一貫の男子校。
中等部と高等部は全寮制、大学部は半寮制。
幼稚舎はどこかの街中にあるらしいが、最初に教えられる言葉が「マネー」とかその類だったら恐ろしすぎて逆に笑える。
まあ、高二の俺には幼稚舎で何を習おうが全く関係ないんだけども。
「てか、世の中不景気だってのに……お金持ちには株価の値下がりも関係ないのか」
左のブロックが中等部、中央のブロックが高等部、右のブロックが大学部。
超金持ち坊っちゃんズが通う、お貴族様の間では有名な私立校だとは聞いていたけど、流石にこれは遣り過ぎじゃないだろうかと思う。
公立出身者の俺としては、一番規模が小さいであろう中等部の敷地でさえ足を踏み入れがたい。
それとも私立はこれが普通なのか?
私立のイメージって、冷暖房完備くらいしかないんだけど。
一体総構築(建築?)費はおいくらでございましょう?、と訊いてみたい。
あ、あと総面積も。
果てしなく恐ろしい答えが返ってくること間違いなしなので、本当に訊いたりはしないが。
「………ねむ……」
ふわあと大きな欠伸を中途半端に噛み殺しながら目をこする。
生理的な涙で視界が僅かに滲むが、正門から校舎がある辺りまで続く並木道の距離を考えると真面目に泣きたい気分だ。
わざわざ取り寄せて植えたんだろう桜はドラマに使えそうなくらい綺麗だけど。
春だねー!新学期ー!、ってダチと騒ぎ出したい衝動に駆られるけど。
中学時代からのダチはここにいないし、いくら目の保養になっても、寝不足の身体で歩くにはキツイものがある。
へいタクシー!、なんて我儘は言わないから、せめてチャリンコを貸し出して欲しい…。
「お坊ったまはチャリンコなんて庶民的な乗り物、必要としたことさえないんだろうけどさ」
溜め息と同時に羨望のような愚痴のような言葉を吐き出し、立ち止まっていた俺は一歩を踏み出した。
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