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わかっていた終わり。07

イクチヨモ、カナシキヒトヲ。
※12禁表現※


 残忍で、冷酷で、傲慢で、自分勝手で。
 繊細で、儚くて、脆くて、傷つき易くて。

 正直に言えば、俺は現在進行形でまだ興味を持っている。

 だから出来ることなら「もう無理、限界」って思うまで、こいつらの傍にいたい。
 自分の中に「執着出来ない」っていう諦めの気持ちが生まれるまで、こいつらと一緒にいたい。

 でも、それは許されない。


 ――――俺はきっと、アキたちを駄目にするから。


 執着心に欠けた俺にとって、こいつらと過ごした二年間は最長であり異例だ。
 お互いに日常生活を知らず、素性を明らかにしていない所為かもしれないが、一箇所に二年近くも留まるなんてあの頃の俺には想像も出来なかった。

 …このままの生活を続ければ、俺はアキたちに執着出来るかもしれない…。
 興味をなくしていないんだから可能性がないとは言えないし、そう思う気持ちは確かにある。

 でも、興味だけで傍にいたら。執着心を持てないまま傍にいたら。
 「普通」でない俺はきっとアキたちの輪を壊してしまう。
 アキたちを好きだと思うから、俺はそうなる前に離れる決意をした。

 それに、ダラダラと空っぽの関係を続けるのはアキの本意ではないだろう。
 浮気をしている現状で俺に別れを切り出さないのは、俺を好きな気持ちが少しは残ってるからとか、そんなんじゃない。
 ただ単に、俺たちは何の明確な言葉もなく付き合い始めたから、別れの言葉が必要じゃないだけ。
 だから厳密に言えば、アキの行為は「浮気」とは言えない。
 俺との関係だって「恋人」ではなく「セフレ」と表現する方が正しいのかもしれない。


「………アキには会って行かないんですか」

「‥最後の最後にお楽しみの邪魔をして行け、って?」

 いつからヤッてるのかは知らないけど、絶倫のアキのことだ。
 今もまだ相手を解放しちゃいないだろう。
 それをわかってて訊くなんて…、ハジメなりの抵抗か?
 感情豊なユイの様に「好きー!」という気持ちを俺に対して表現してくれたことはないけど、少しでも離れ難いと思ってくれてるなら、ちょっと嬉しい。

「生憎、他人様の情事現場に乗り込むような崇高な趣味は持ってないよ」

 「付き合おう」という言葉無しに始まった俺たちの関係には、「別れよう」という言葉も無い終わりが似合ってる。

「…………」

「それより、ユイ、頼むよ」

 気がつく前に行きたいし。
 そう続けると、ハジメは眉間に皺を刻んだまま、頷きなのかそうでないのか、よくわからない動作をした。
 仲間なんだからユイを拒否されることはないだろうと、俺は勝手に承諾してくれたと判断し、歩み寄る。

「多分、十分もしないうちに起きると…―――?」

 手加減をしていないとは言っても、俺は腕に覚えがあるし、ユイも可愛い外見に反して乱闘には慣れている。
 だから寝かせておけばそう経たないうちに意識を取り戻すだろう。
 そう思いながらユイを手渡す為、キスが出来そうな距離までハジメに近付いたのだが……。

 なんというか、本当にキスが出来そうなくらい近くにハジメの顔があって。
 いくら何でもこれは近過ぎじゃないだろうかと思った刹那、唇に柔らかいものが触れた。

「‥、!?」

 キス。
 ……キスだ。今のは間違いなく。

 顔を上げたらぶつかってしまったとか、そういう不測の事態じゃない。
 ハジメは俺の腕からユイを受け取った瞬間、少し屈んだ体勢のまま、明らかに意思を持って俺にキスをした。

「……ハジメ、御乱心…?」

「違います」

 ハジメにキスされる理由がわからなくてちょっと呆気にとられたまま思ったことを口にしたら、即座に否定された。

「なら、何で?」
「……最後に確かめたかったんです」
「…何を?」
「貴方に対する気持ちが、何なのか」

「は?」

 予想外も甚だしいハジメの告白を聴覚がしっかりと拾い、思考回路がストップしかける。
 だって、キスで確かめられる気持ちって言ったら、一つしか思い浮かばない。

「俺は貴方が好きです」

 真っ直ぐに俺を見つめる双眸。
 真剣なその眼差しと信じられない言葉に、恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかった。
 …照れるなんてガラじゃないけど。

「………ありがとう‥?」

 何て答えたらいいのかわからないが、ごめんなさいという謝罪はおかしいだろう。
 それでもありがとうだって微妙だよなと眉をハの字にした俺に、ハジメは珍しく薄っすらと微笑んだ。
 …俺が女だったら、多分普段とのギャップに落ちてるな。これだから美形は恐ろしい。

「チカ、どうかお元気で」

 さ よ う な ら 。

 ハジメが敢えて飲み込んだ言葉を、俺も同じように飲み込むことにした。


「ハジメも、元気でな」



 夏の灰色の空の下。
 変わらない俺の新しい生活が、始まる。





NEXTCHAP





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