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わかっていた終わり。05

イクチヨモ、カナシキヒトヲ。


 アキの浮気を知っても殴り込みになど行かない、いつも通りの俺。

 それでもユイは、俺が纏う空気にいつもとは違う何かを感じたのかもしれない。

「何言ってんだよ、ユイ。俺が遠くに行くわけないだろ?」

 これ以上泣かせるのが嫌で誤魔化そうとしたけど、ユイは誤魔化されてくれなかった。

「うそだ! チカ、普段はスーツなんて絶対着ないっ。髪型だっていつもと違う!」

 流れる涙を気にせずに俺を睨む、強くて綺麗な眼。

 曇ることを知らないその純粋さは、眩しいと同時に酷く興味深い。

 俺がアキ率いる『steel』というチームに関わろうと思ったのは、アキたちの眼に興味を持ったからだった。


「何で…っ、何でチカからたばこの臭いがするんだよ!!」

 煙草の煙が目に沁みる俺は、アキに俺といる時は煙草を吸わないでくれと言った。

 ユイは勿論、そのことを知っている。

 だから、煙草の臭いがつくほど誰と何処に居たんだ、と怒っているんだろう。

 俺はアキと違って不特定多数の人間に迫られる要素なんて持っていないけれど、ここ二週間ばかり連絡を断っていたから、ユイがそういう考えを持つのは当然のことなのかもしれない。

 ユイには、本当に色々と迷惑をかけた。

 殆どというか全ての原因がアキだったような気もするけど……それも今日で終わりだ。

「ごめんな、ユイ」

 目が真っ赤になったことを思い出せばヘビースモーカーの伯父たちがちょっと恨めしいが、線香のにおいを消してくれたことには正直感謝したいと思う。

 若し伯父たちが喫煙を控えていたら、線香のにおいに慣れている俺は自分が線香くさいことに気付かないまま、法事に出たことをユイに覚らせてしまうところだった。

 …やっぱり、シャワーを浴びて着替えてから来た方がよかったのかもしれない。今更どうにもならないけれど。


「――行かせない」

 普段の俺には酷く不釣合いな真っ白のハンカチで涙を拭っていたら、怖いくらい真剣な眼をしたユイに手首を掴まれた。

「ユイ、」

「行かせない。チカは、アキのそばにいなきゃだめだ」

「……アイツの傍にいるのは、ユイとハジメだけで充分だよ」

 悪名高い『steel』の総長、アキ。

 狂暴で傲慢な俺様の両脇には、副総長の二人がいれば、それでいい。

 俺がいる必要はないし、いても意味なんかない。

「違う。アキに必要なのはチカだけだ。どうしても離れて行くって言うなら……」

 副総長としての鋭さを帯びる、一対の瞳。


「手足を折ってでも、アキのそばにおく」


 俺の首を絞めるユイを、本当に綺麗だと思った。





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