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わかっていた終わり。04

イクチヨモ、カナシキヒトヲ。


 普段は電車で通る道を徒歩で進むのは、結構面倒臭い。

 それでも最後だからと思えば、額に薄っすらと滲む汗もあまり気にならなかった。


「六時半……早いと言うべきか、遅いと言うべきか…」

 車を降りて一時間。

 慣れない道に戸惑いつつも、漸く見覚えのある通りに出た。

 ここまで来れば、暗くても迷子になる心配はない。

 腕時計で針の位置を確認しつつ、正しかった自分の勘を褒めようかと思った時、か細い声が聞こえた。


「――――っ、…チカ……」


 目的地である地下室へと続く、階段の前。

 俺の行く手を阻むように座り込んでいたのは、ユイだった。

 可愛い顔が哀しそうに歪んだのを見て、俺は薄く笑う。

 ――今日も、か。

 アキは今、地下室の奥の部屋で誰かとお楽しみの真っ最中なんだろう。

 アキがセフレとヤってる時、ユイはいつもここに座り込んでいるから。

 俺を待つ為に外に出ていることもあるけど、泣きそうな声で俺の名前を呼べば、もう疑う余地はない。

 そもそも。
 アキを愛しているわけでもない俺には、疑う必要すらない。


「久しぶり、ユイ」

 笑顔で軽く手を振りながら近付くと、俺の腰に突き飛ばさんばかりの勢いで抱きついて来たユイは、いつもの台詞を口にした。

「アキを見捨てないで…」

「…………」

 アキが浮気をすることで一番傷ついてるのはユイだ。
 わざわざ「一番」とつける必要はなく、ユイだけが傷ついてるのかもしれないけれど。

 恋人として怒るべき場面で面倒だと思ってしまう俺も、弟のようなユイが哀しむのは辛い。
 初めてアキとセフレの情事を目撃した時だって、アキへの怒りよりユイを哀しませたくないという思いの方が断然強かった。

 黙って頭を撫でていた俺の意識を、ユイの涙声が現在に引き戻す。

「チカ‥お願い、アキを見捨てないで……っ」

「…ユイ? どうした?」

 ぎゅぅぅうう、という音が聞こえそうなほど力一杯俺の腰を抱き締めているユイの腕を掴み、その小さな顔を覗きこむ。

 アキが堂々と浮気をする度、ユイは俺に「アキを見捨てないで」と言った。

 だけど、こんなに必死に……懇願されたことはなかった。

「チカ、嫌だ…っ」

「どうしたんだよ、ユイ。何かあっ――――」

「やだ!!」

 突然叫んだユイに、思わず動きを止める。

「え…」

「おれ、チカが遠くに行くの、嫌だ…!」





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