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曲がりくねった季節に。


 ……いやいやいや。
 いやいやいやいやいやいや。
 何だソレ、おかしいだろ。
 おかし過ぎて「いや」連発しちまったじゃねえか。

 ナニがドコに行ってドンナ風にぶつかればソンナ結論が出来上がるんだ。

 そもそもセフレを整理することが俺だけのものになることとイコールになるわけねえだろ。
 直したって日向のものにはならない、ってさっき言ったばっかりなんだが、綺麗さっぱり忘れたのかコイツは。

「! ……返す」

 頭の中であれこれ考えている内に壁際に追い込まれた。
 いや、追い込まれたっていうか、日向が近付いてくる分後退してたら、いつの間にか背中に壁がくっついてたんだけど。
 包まれた手ごと携帯を押しつけると、十センチ以上上にある眉間に皺が寄った。

「お前にやるっつっただろ」
「要らない」
「っ…、何が気に入らねぇんだよ!!」

 乱暴に取り上げられた携帯はコンクリートに叩き付けられていくつかの破片を飛ばす。
 その硬質な音を聞いて、無残な姿を視界の端に捉えて、胸が痛んだのは何故だろうか。

 頭の中でスイッチが切り替わった気がした。

「オレが好きなんじゃねぇのかよ!!?」
「――――ねえよ」
「ああ゛?!」

 今すぐ家に来いとか離れるのは許さないとか、一方的に言葉を押し付けて。

「俺にばっかり注文つけんじゃねえよ!!」

 オレのものになれとか嫌いなのかとか、一方的に答えを要求して。

「俺にばっかり求めんじゃねえよ!!」

 フェアじゃねえにもほどがあるだろ。

「ろくすっぽ返事もしねえてめえに腹立てる資格があるとでも思ってんのか?! オレ様も大概にしろッ!!」

 何で俺ばっかりが自分の気持ちを言わなきゃなんねえんだ。

 どうせ、日向は応えないのに。
 日向の気持ちは俺にないのに。

「好きじゃねえのか、だと?? ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ! てめえのことが好きだからって誰もが大人しくてめえのものになるわけねえだろうがッ!!」
「携帯要らねぇっつったのはッ、」
「携帯なんか要らねえんだよ!! セフレ片付けたって意味ねえんだよ! …っ、他人のものになるってことはそんな簡単なことじゃねえんだよ!!」

 俺は男だから。女じゃないから。
 傍にいられればそれでいいなんて思わない。
 抱いてもらえるだけでいいなんて思わない。

「俺だけのものになるってことは、俺だけを『好き』ってことだ!!!」

 日向の心が手に入らないのなら、日向なんて、要らない。

「‥ッ…楽しいかよ…」

 日向の胸倉を掴み、そこに顔を伏せる。
 下を向くと視界が滲んで涙が落ちそうな気がしたが、こんな情けない顔を晒すよりは何億倍もマシだ。

「俺の心揺さ振って、みっともねえ姿見て…満足かよ?」

 俺を好きじゃないお前なんか要らない、って、カッコよく突っぱねたかったのに。
 今の俺は好きになってくれなきゃ嫌だと駄々を捏ねるガキだ。
 手も声も震えて、本当にみっともない。

 瞬きと同時に涙が零れた。


「―――…ッ、満足なわけねぇだろうがこのトンチンカン!!!」


 ……は?

「とんち…、誰がトンチンカンだッ! てめえにトンマ呼ばわりされる謂れはねえっつーの!!」
「トンチンカンだからトンチンカンだっつってんだよ!! この鈍感野郎ッ!!」
「はぁ!!? 俺が鈍感ならてめえはチョーウルトラスーパーハイパー鈍感野郎だろうがっ!!」

 胸倉を引き寄せ、至近距離で睨み合う。
 俺は泣いたことも忘れて眉を吊り上げた。
 相手のことをこれっぽっちも考えない自己中日向に鈍感野郎と言われるなんて、納得がいかない。

「俺のどこが鈍感だっつーんだよ!!」
「人の告白スルーしてトンチンカンなこと言ってるヤツのどこが鈍感じゃないってんだ!! ああ゛!?」
「俺はてめえと違ってトンチンカンなことなん、て……え?」

 こくはく…?
 あれ、ちょっと待て、なんか今物凄く日向に似合わない言葉が聞こえた気がするぞ。





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