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曲がりくねった季節に。
※12禁表現※


 聞き間違いか? 幻聴か?

「お前、いつ、誰に、告白なんて…」
「すっとぼけてんじゃねぇよ!! 何度もしただろうがッ!!」

 な、何度も…?
 マジで怒ってると言うよりはマジでキレてる日向に怒鳴られて口を噤み、脳内で記憶を再生してみる。
 …まあ、確かに、告白ととれなくもないような台詞は何度か言われた、な。うん。
 お前は誰にも渡さないとか、オレのものになれよとか、お前しか要らないとか。

 いや、うん、でも、さ。

「そんな言葉でわかるわけねえだろうがッ!! つーかそんなのは告白って言わねえんだよ!!」

 相手が普通の人間だったら、雰囲気で告白と同義になるのかもしれないが、相手はあの日向だ。
 セフレが山ほどいて、ヤる為に生きてますみたいな生活してて、喧嘩を売られれば即買って、初対面の俺を強姦した男だ。
 思わせ振りなこと言って振り回すんじゃねえよ!、とは思っても、あれ、もしかして告られてるのか俺…?、とは絶対に思わない。
 察しろって方が無理だろ。

「遠回しなこと言う暇があったら『好き』の二文字くらいスパッと言いやがれ!!」

「好きだ!!!」

 間髪容れずに返された告白に目を見開く。
 え、や、確かに言えとは言ったけど。
 なにその素晴らしいレスポンス。

「一年の頃からずっと好きだった」
「……、…」
「眼鏡外して夕陽に手ぇかざしてるとこ見て、名前なんか知らねぇのに、コイツが欲しいって思った」
「……っ」
「…無理矢理抱いて、悪かった。お前が欲しいのに一年経っても全然近付けなくて、お前の代わりに誰かを抱いてもムカつくだけで‥。もう当たって砕けるしかねぇって思ってた時に、お前が赤い顔で前から…、チハル?」

 少し視線を外して喋っていた日向が、顔を覆ってしゃがみ込んだ俺に気付いて言葉をとめた。
 訝しげに問いかけてくる。
 …わかれよ。
 自分が恥かしいこと言ってて、言われてる相手もすげえ恥かしいってこと。
 人を鈍感呼ばわりするならわかりやがれ。
 つーかチハルってなんだ。
 いつからお前は俺を名前で呼ぶようになったんだ。
 許可した覚えはねえぞ。

「気分悪いのか? ダルい? 熱中症?」

 前にしゃがみこんだ日向の声を無視していると、具合が悪くなったと勘違いしたのか、そっと額に触れてきた。
 …何この甘さ。何この恋人っぽい態度。
 お前、こういうキャラじゃねえだろ。
 他人を心配するような性格じゃねえだろ。
 骨張ってる手で気遣うように優しく熱を測られて、俺は逃れるように顔を下げた。

「チハル…? 大丈夫なのか? 顔上げろよ」

 嫌だと言う代わりに首を振る。
 喋ったって顔が赤いことはバレないだろうが、口を開けば変な声が出る気がした。

「…おい、チハル」
「…………、ひあっ?!」

 な、な、な、

「舐めんじゃねえよッ!!」

 いきなり人の耳を舐める奴があるかッ!、と顔を覆っていた手を外した俺の目に映ったのは、してやったり、と笑う日向。
 信じらんねえ…。
 普通、顔上げさせる為だけに舐めたりしねえだろ。

「照れてただけかよ。心配させんな」
「っ、心配してくれなんて頼んでねえよ! つーか照れるに決まってんだろうが!!」

 ニヤリと笑って近付いてきた日向の顔を両手で押し返す。
 俺は1%だって期待してなかったんだ。
 100%嫌われてると信じて疑わなかったんだ。
 いきなり好きだとか色々言われたら、驚きと喜びと恥かしさで顔も赤くなるってもんだろ。

「チハルかわいい」
「かっ、…!?」

 かわいい、だと!?
 仮にも『狂犬』と呼ばれ恐れられていた俺に、かわいい!?
 絶句して固まる俺を日向は笑顔のまま押し倒し、両手を顔の横で固定した。

「これからはチハルのかわいい顔、見放題だな」
「ばっ‥‥、お前キャラ違い過ぎんだろ!! 横暴で冷酷で自己中で人を人とも思わないような傲慢さはどこ行った!?」
「さあ…。チハルが手に入ったから粗大ゴミにでも出されたんじゃねぇの?」
「そんなもんが粗大ゴミに出せるわけねえだろうが!」

 突っ込む俺も俺だが、何だその適当な答えは。
 自分のことなんだからもう少しまともなことを言え。
 一つの要素がそんな簡単に消えていいのか?
 …いや、傲慢さは健在だな。
 そこに甘ったるさがプラスされて別人のように見えるが、自分の都合で物事を推し進めようとするところはちっとも変わっちゃいない。

 俺に対してだけ――って思うのは、自惚れだろうか。

 黙って見上げる俺を日向は真剣な表情で見下ろす。
 その双眸に、昔の俺に似ていると思った色はもう、ない。

「チハルはオレのものだ。今度オレから離れようとしたら……」
「殺す、か?」

 からかうように口角を上げれば、拗ねたように唇が下りてきた。
 瞼に軽く触れ、頬を滑っていく。

「殺させんなよ」
「お前が俺だけのものでいる間は、心配ねえと思うけど?」
「…賢聖って呼べ、馬鹿」

 言うなり、日向は俺の口を塞いだ。
 声が出せない状況でどうやって名前を呼べと?

 ばかけんせい

 仕方がないから喉の奥で呟いた。



 背後霊のようにベタベタベタベタくっついて離れようとしない日向に頭を悩ませるのは、また別のお話。





FIN * CHAP





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