曲がりくねった季節に。 ※暴力流血表現※ 最高にイラついていた俺は、日向と入れ替わるようにして現れたさっきの後輩に、遠慮とか容赦とか、そういうことをする気は一切なかった。 「堀田知流。お前、似てないけど武澤星乃とは双子の兄妹なんだってね」 煩ぇな。 二卵性なんだから外見が似てねえのは普通だっつーの。 名前についてもよく関連性がないとか共通点がないとか言われるが、『知“流星”乃』って繋げたらわかるだろ? コイツなんかに由来を教えてやる気はねえけど。 「それが?」 中学の時も星乃を傷物にすると脅されたことがある。 でも、そんなのは先に相手を潰せばいいだけだし、星乃だって馬鹿じゃない。 薄っぺらい声を返すと、馬鹿にされたと思ったのか、後輩は目を吊り上げた。 「今度賢聖に近付いたら、妹をぐちゃぐちゃにしてやるから。覚悟しておくんだね」 馬鹿だなコイツ。 相手にされてないって気付いてないのか。 抱いてもらえればそれでいい、って思ってんのかもしんねえけど。 そんなことはどうでもいい。 どうでもよくないのは、 「誰をどうするって?」 「がっ…!!?」 俺の前で、 「何を覚悟しろって?」 「ぅっ…あ゛ッ…!!」 星乃を傷つけると宣言したことだ。 「俺は真正面以外から喧嘩売られるのが大ッ嫌いなんだよ。俺が気に入らねえんなら、小細工なんかしねえで独りでかかって来い」 『狂犬』かもしれないと噂されている人間に堂々と脅しをかけてきたのは、単純に頭が弱いからなのか、それとも自信があるからなのか。 後者であり、前者だな。 本気で相手を支配したいなら、自分の手の内は最後まで見せるもんじゃない。 「後ろから売りやがったら、最低でも一日は意識不明になるぜ‥?」 「ヒィ……ッ!!」 失禁して気絶した後輩を見て、あ、やべ、ちょっとやりすぎた、と思ったが。 「…ま、自業自得ってことで」 今度何か言って来た時の為に、無様な姿を写メっておいた。 * * * 「知流! おっはよー!」 「いでっ」 「今日もあっついねー」 「……………」 おはようじゃねえよ。暑いねじゃねえよ。 お前は兄貴の背中を殴らないと朝の挨拶も出来ないのか。 毎朝、当然のように手加減のない攻撃を浴びせやがる星乃に、最近強く思う。 コイツに護身術を習わせたのは間違いだったかもしれない、と。 何で身を護る術を学んで攻撃的な人間になるんだ。 ――――またかよ。 「ねぇ、今日部活に来ない? って言うか、料理部に入らない?」 「……は?」 「部長たちも堀田くんならいつでも歓迎〜、って言ってるし。綺麗な子も可愛い子も揃ってるよ?」 何だその台詞。客引きかお前は。 「料理部って言っても、作るのは料理じゃなくてお菓子なんだろ。俺の守備範囲外じゃねえか」 仕事人間の両親に代わって食事を用意していたのは俺だから、そこそこ腕に覚えがある。 肉じゃが、魚の煮付け、散らし鮨、ハンバーグ、オムライス、カレー、シチュー…何でも来いだ。 けどお菓子類は作ったことがないし、作れる気がしない。 料理とお菓子って似てるようで全然違うだろ? 「別にお菓子を作らなきゃいけないわけじゃないし、お菓子しか作っちゃいけないわけでもないわよ」 って言われてもなあ。 俺、趣味は料理です!、って人間じゃねえし。 ――――マジうぜえ。 「知流? どうかした?」 「‥や、別に」 「ふぅん。で? 部活は?」 「行かねえし入らねえよ」 「ケチ!」 誰がケチだ。 「久しぶりに知流の手料理食べたかったのにー!」 「…だったら最初っからそう言え、馬鹿」 「馬鹿とはなによっ、馬鹿とは!」 「朝っぱらからでかい声出すんじゃねえよ。そんなに食いたけりゃ材料用意しろ、材料」 「えっ、ほんと?! やったァ! みんなの分もね! あたし、部活中に知流のことすっごく自慢しちゃったから!」 「……………」 生徒で溢れ返る下駄箱の騒がしさと、星乃の煩さと、上履きに被さっている手紙と、刺すような視線と。 どれが一番マシかなんて、そんなことは考えたくもない。 ――――睨んでんじゃねえよ、クソ日向。 NEXT * CHAP |