曲がりくねった季節に。 ※15禁表現※ 待ち惚けを食った数日後、日向から連絡があった。 今すぐ家に来い、と。 わざとなのか忘れているのか、謝罪は一言もなかった。 まあ、アイツにそんなものを期待するのは無駄だってわかってるけど。 マンションの前に着いて腕時計を見ると、電話をもらってから三十分ほど経っていた。 六駅離れてるから大体いつもこれくらいかかるんだよな。 家と駅の間を走れば十分くらい短縮出来るんだろうけど、そんな面倒で疲れることはしたくない。 エレベーターで目的の階に上がり、半月くらい経った頃に貰った合鍵で玄関を開ける。 これと同じものを持ってる奴が一体何人いることか…。 日向の両親は忙しくて滅多に帰って来ないらしいから、ラブホと化していると言っても問題はないだろう。 「…………」 靴を脱ごうとしたところで、見覚えのない靴が揃えられていることに気付いた。 どう見ても男物だが、日向のものである可能性はゼロだ。 アイツの靴は隣にある大きいやつだし、日向家の子供は一人だけ。 と言うことは、つまり……。 いやいや、そこまで嫌な奴じゃないだろう、なんて考えながらも、俺は普段ならリビングに向ける足の音を消し、日向の寝室にそっと近付いた。 「…ゃ……ァ…ッ」 ドアに押し当てた耳に聞こえてきたのは、微かな喘ぎ声。 すう、と頭の芯が冷えていく。 …そうか、日向にとっての俺は、セフレ以下の存在だったのか。 まあ、脅迫で成り立ってる俺たちの関係をセフレだと思ったことは一度もないが。 ここまで虚仮にされるとは思ってなかったぜ。 はあ。 深呼吸のような溜息のような、よくわからない空気を吐き出した俺は、ノックもせずにドアを押し開いた。 「ぁあんっ、アッ、はぁっ…!」 途端、大きくなった嬌声と強くなった精の臭いに、顔を顰める。 うげぇ。 ヤってる本人たちは気にならないんだろうが、慣れることなく突然足を踏み入れた人間にはキツイものがある。 ていうか、他人の情事を盗み見する趣味はないし、他の奴らはどんなセックスをしてるんだろうな、なんて好奇心もない俺には、不快感しか沸いてこない。 侵入者に気付かない二人をドアに背を預けた状態で眺めていると、一応顔がこっちを向いている相手の少年が俺に気付いた。 「ヤぁっ、だれ…っ、けん、せい、誰か見てるぅ…っ!」 抱いている少年の声に日向が振り返る。 薄暗い空間で俺とばっちり目があったが、その端整な顔は驚くことも青褪めることもなかった。 それどころか、これ見よがしに腰を動かし、少年に大きな声を上げさせる。 「アッ、あぁっ、そこ…イイッ…あんっ、けんせい、もっと…!!」 「締め付けやがって…見られて興奮してんのかよ?」 馬鹿らしい。 俺はお前らを盛り上げる為に電車賃無駄にして来たんじゃねえっつーの。 第三者の目を気にせずに獣のように抱き合う二人を見て、思わず鼻から笑いが漏れた。 帰ろ。 日向が何の為に俺をここに呼んだのかは知らないが、終わるまで待っててやる義理はない。 俺はそこまで律儀じゃない。 それに日向が男を抱いているところを見て、自分の感情が何なのか思い知った。 捨て犬に向ける単純な愛情とは違う。 恋愛感情で好きと言うにはまだ幼すぎるが、確かにこれは男に対する『好き』だった。 だから、日向との関係を終わらせる。 アイツに対する気持ちに気付いてまで、日向の傍にいる道は選ばない。 他人との情事を見せ付けられてまで、アイツとの関係を続ける道は選ばない。 馬鹿な俺は、今日で終わりだ。 「―――どうせだから、『狂犬』に戻るか」 リビングのテーブルに合鍵を置き、その隣に外した伊達眼鏡を畳む。 これは、初めて俺を抱いた時に眼鏡を壊した日向が、後日俺に突きつけてきたものだ。 日向が壊したんだから当たり前だと思う反面、何で日向なんかから物をもらわなきゃなんねえんだと思ったが、綺麗なクリムソンのフレームは結構気に入っている。 でも、今はもう日向からの貰い物なんて身につけていたくない。 俺を呼び出しておきながら他の男とよろしくやってる奴のことなんか、知るか。 日向のマンションを後にした俺は、真っ直ぐに家へは帰らず、近くの美容院に向かった。 顔を隠している長い前髪を切り、外見だけでも『狂犬』に戻る為に。 NEXT * CHAP |