※12禁表現※ 「たかひろ、愛してる…っ」 「、ぼく、も……!」 人間って不誠実な生き物だ。 心にもない台詞を平然と吐けるんだから。 口が虚しい、と書いて嘘。 「空大、今日の練習何時からって言ったっけ?」 ソファーで朝刊を読んでいる先生の質問に、食後の紅茶を淹れていた俺は壁掛け時計を一瞥してから答えた。 「十一時。集合は十時半だけど」 「送って行こうか?」 「いいの?」 ティーカップをローテーブルに置きながら訊くと、先生は勿論、と言うように頷いた。 「でも、今度模擬試験があるんでしょ? 先生、忙しくないの?」 先生は駅前にある進学塾で小中学生に英語を教えている。 塾なんて通ったことがないからどんな所でどんな仕事があるのかは全然知らないけれど、公立校の教師だって試験前後は忙しくしているんだから、色々とやることがあるんじゃないだろうか。 そう思って首を傾げると、先生は一瞬瞳を揺らした後、忙しくないよと言って、俺の頭を抱き寄せた。 「十時に出れば間に合うよな?」 「うん」 先生、ありがと。 呟くように言った俺の額に軽く口付け、先生はニッと口角を上げる。 嫌な予感がして離れようとしたけど、先生の手が俺の顔を拘束する方が少しだけ速かった。 「空大、『先生』じゃないだろ?」 「…ナガセさん」 「違うだろ?」 違わないよ。 先生の苗字は長瀬で合ってる。 「……っ、せん、‥‥ふぁ…ッ」 別に呼び方なんてどうでもいいじゃん、という俺の考えは、舌を絡めてくる先生には伝わりそうにない。 年とると細かいことに煩くなるんだよ、って言ったのは珠樹(タマキ)だったっけ。 確かまだ二十七歳だから、オジサン呼ばわりしたら失礼だと思うけど。 ベッドの中以外でも『悠平(ユウヘイ)』と呼ばれることを望む先生。 どっちが欲しいの?、って訊いたら、驚くのかな。 それとも、意味が分からずに首を傾げるのかな。 俺としては、驚いてくれた方が面白くていいんだけど。 「は…、んんっ……」 項から徐々に下へ向かう先生の手は、静かに情欲を煽っていく。 だけどそれに負けるほど性欲があるわけでもない俺は、素肌に触れられたところでストップをかけた。 不満そうな目で見下ろされても、このままヤってもいいかな、なんて思わない。 「………」 「これから部活だし、せっかく淹れた紅茶が冷めちゃうじゃないですか」 「…そうだな。ごめん」 苦笑しながら離れた先生の隣で少し冷めた紅茶を口に運ぶ。 ねえ、先生。 貴方はきっと考えたこともないんだろうね。 弟がホットティー好きでも、双子の兄がそうとは限らない、なんて。 NEXT * CHAP |