イクチヨモ、カナシキヒトヲ。 本当なら三月中に帰国する予定だったが、俺が日本の高校に行くことを知った生徒たちに毎日のようにパーティーを開かれ、あっちこっち連れまわされた為、アメリカを出たのは四月が始まってからだった。 と言っても、職員寮には最悪入学式の前日に入ればいいと聞かされていたから、予定を狂わされたとは思っていない。 むしろ帰国後の予定を何も立てていなかった俺にとって、アルコールがなくても騒げるアクティブな生徒たちと過ごした時間は有意義なものだった。 勿論、俺にだって友人はいる。 こういう性格だから頻繁に連絡を取り合うことはないが、帰国を伝える友人くらい持っている。 にも関わらず帰国後の予定が何もなかったのは、ただ単にそれを祝うような性格じゃないからだ。 俺が、ではなく。お互いに。 三年の一学期までを過ごした高校のクラスメイトに連絡すればすぐにでも宴会場を押さえたという返事がくるんだろうけれど。 酒やツマミを片手にどんちゃん騒ぎをするより、自分が行きたい場所をのんびり歩きがてら友人の家を訪ねた方が何倍もいい。 ――と、言う訳で。 俺は日本で最初の朝を迎えた日に早速散歩に出かけ、近所にあるはずのクリーニング店に足を運んだのだが。 「まさかこんなものを渡されるとはなあ……」 ふかふかのソファーに腰を下ろし、小さく笑いながら見つめる先には一枚の写真。 長方形の紙の中では十年近く前の自分が非常にいい加減な笑みを浮かべている。 「作り笑いってバレバレだろ、これ」 今も昔も作り笑いは得意だが、授業参観でフォークダンスをやらせる中学校なんてここだけに違いない、と思いながら眠い頭で嫌々踊っていた記憶がある。 それにしても、こんな姿を撮られていたとは…。 この写真は高校卒業と同時に家業を継いだ女店主から渡されたものだ。 何のアポもとらずに顔を出したのに、封筒入りの写真は何故かすぐ手の届くカウンター脇の抽斗に入っていた。 どうやら入寮する前に一度来ることを予想していたらしい。 流石は初カノと言うべきか、俺に唯一同年齢で告白した女と言うべきか…。 以前より幾分綺麗になっていた彼女の『二十五歳までに結婚出来なかったら貰ってねv』という冗談めいた台詞には笑って返事をしておいた。 NEXT * CHAP |