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わかっていた終わり。01

イクチヨモ、カナシキヒトヲ。


「五時半だから…、遅くても七時には着けるだろ」


 頬を撫で、髪を攫っていく風は生暖かく、これから本格的に訪れる夏を感じさせる。

 夏は好きだ。
 あの人との思い出が沢山あって、一番あの人の役に立てた時季だから。
 暑いのは嫌いだけど、昔は早く夏休みになればいいと思っていた。

 今年もまた猛暑になるのだろうか。

 明日から夏休みが終わるまで一日中部屋に閉じこもる予定の俺には関係のないことだけど。

 バイトに行く気力がなくなるから勘弁して欲しいと沈んでいた去年までが、何だか懐かしく思えた。


「あつ……」

 サマースーツだから着替えなくてもいいか、と思ったのだが、やはりスーツはスーツ。

 昼間に比べて少しは涼しくなっているはず…というか、涼しく感じるはずなのに、ちっとも涼しくないどころか普通に暑い。

 薄っすらと汗ばんでくるのがわかる。

 横着しないで普段のラフな服に着替えてくれば良かった、と後悔してみても、着ているものは当然スーツのまま。

 俺は黒いネクタイの結び目に指を突っ込んで緩めながら、きっちり第一までかっていた釦を二つ外した。

 首元から入り込む風は相変らず湿っぽいが、手でシャツを掴んで肌との透間を作ると結構マシになる。

 でも喪服を着崩したまま歩くのは気が引けるから、喪服だと決定付けるネクタイを畳んで上着の内ポケットに仕舞い込み、その上着も脱いだ。

 シャツを肘の辺りまで捲り上げて気だるげに上着を背負えば、会社帰りのサラリーマンの完成。

 所持品は財布と携帯電話だけで鞄なんて荷物はないけど、人が溢れるこの街で他人の持ち物を気にする人なんていないだろう。


 信号待ちの人々の中に違和感なく紛れ込んだ俺は、あの日と同じような色の空を見上げた。


「(――変われなかったのか、変わらなかったのか………)」


 いずれにせよ、俺という人間に変化の兆しはない。





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