ソファーに片膝をついてヨージを抱きしめ、あやすように背中をぽんぽん叩く。 何で元恋人にここまでしてやらなきゃならないんだと思わないこともないというか物凄くそう思うが、泣かれるとこういう対応しか出来ないんだから腹を立てても意味がない。 自分に対して苛々することほど虚しいことはないもんな。 「―――……ヨージ、泣き止んだなら手を解きなさい」 「…いやだ」 「やだって、」 「ノリト、まだ震えてる」 「‥、」 ぎゅうっ、と。 腰に回されている手に力が篭る。 ……おれが震える程目の前で泣いたのはヨージだろうが。 「いいから離しなさい」 「やだ」 「…調子に乗るな浮気小僧」 「痛っ!」 こめかみを拳でグリグリと圧迫し、拘束力が弱まったところで身体を離す。 「話しは後だと言っただろう。ユージの手当てが済むまで黙っていなさい」 「……ノリトはもう、俺のこと好きじゃないんだよな」 「は?」 「浮気してたんだから当たり前だけど。それはよくわかってるけど。…っ、何で祐司なんだよ!」 「…何を言っているのかわからないんだが?」 「ノリト、今は祐司のことが好きなんだろ!?」 「………はい?」 それはどこのノリトさんの話だ。 おれはユージを好きだなんて一言も言ってないぞ。 嫌いとも言ってないが。 「惚けんなよ! 好きじゃないならっ‥、好きじゃないなら、何で何も言わないんだよっ!!」 「…わかりやすくはっきりと言え。意味がわからない」 「だからっ、何でキスしたユージに何も言わないんだよっ!! 好きじゃないなら怒るだろっ!!?」 あー、…そんなこともあったっけ。 変わり果てた顔を見た所為かすっかり忘れていた。 「まあ…、納得は出来ないが理解は出来るからな」 「何でだよ!?」 「何で、って……」 視線を右にずらしてちらりとユージを見る。 ユージがおれにキスしたのは十中八九ヨージへのあてつけなんだろうが…。 ユージがヨージの浮気相手を好きだってことは、おれが言っていいことじゃないよなあ。 「…きみには関係のないことだ」 「ある!!」 「元恋人に過ぎないきみに一体どんな関係があるのかな。第一ユージだっておれが好きでキスしたわけじゃないんだから、そこまで気にする必要なんてな――――」 「好きだ」 「……、は?」 右側から聞こえてきた声に振り返る。 今、途轍もなく不適切で不可解な音が聞こえたんだが。 …幻聴だよな? 「悪い、ユージ。十九時間も寝続けた所為か聴覚が狂ってるらしい。もう一度言ってくれ」 「俺、アンタが好きだ」 「………………」 「言われなくたってわかってんだよ!! 俺の前で堂々と告んなッ!!」 待て待て待て待て。 ユージもヨージもちょっと待て。 おかしいだろ。 何がどうしてそうなった。 「落ち着け少年。きみの好きな人はカノジョだろ? ヨージへのあてつけでも違う人間を好きだなんて言うもんじゃない」 「あてつけじゃねえよ。俺はアンタが好きだ」 「ちょっと待てよ。俺へのあてつけってなん――――」 「黙ってなさい」 「、‥」 ヨージを黙らせ、ユージの真正面に膝をつく。 「ユージ。おれは一目惚れを否定する気はないが、きみに好かれる要因があったとは思えない」 「俺だってアンタが自分の魅力を理解してるとは思ってねえよ」 「…おれに魅力があるかないかは関係ない。仮にあったとしても、カノジョを好きな状態でおれと会ったきみには興味のないものだったはずだ」 「確かに初めて会った時は何とも思わなかったけど。アンタと話してる内に陽司がアンタに惚れるのも無理ねえなって思った」 ユージの話しを聞いているとおれには素晴らしい魅力があるように思えてしまうが、所詮は浮気したくなる程度のものだろう? たった二回のコンタクトで惚れるには十分無理があると思う。 「――‥なあ少年。これはおれの勝手な推測だから違うなら違うとはっきり言って欲しいんだが。きみは別にカノジョのことを好きだったわけではなく、自分より優位に立っているヨージの浮気相手が可愛い子だったから単純に腹が立って、その内にヨージに対する怒りをカノジョに恋心を抱いているからだと思い込んだんじゃないのか?」 「………」 「そうだとしたら、きみがおれを好きだという気持ちも信じ難い」 「…そうかもしれねえけど、アンタを好きだと思う気持ちは本物だ」 「ユージ、」 「アイツには傍にいたいとかキスしたいなんて思わなかった」 ‥随分と直球だな。 カノジョが聞いたら絶対怒るぞ。 「窶れたヨージに対する罪悪感からおれを責めたり泣いたりしたんだろうが、悪いことをしたと思ってもきみはヨージを嫌っている。おれがヨージの手を離れた人間だから欲しいと思うんじゃないのか?」 「違ぇよっ!」 「言い切れるのか?」 「当たり前だ!!」 即答されても困るんだが。 こんなおれのどこを短期間で好きになるんだ?? …そう言えば、ユージとヨージは好みが似てるんだったな。 恋愛対象まで似なくてもいいだろうに。 「俺はいつまで黙ってればいいんだよっ」 「もう喋っても構わないが、先に言っておく。きみにユージを責める資格はない」 「何でっ!!」 「それくらい自分で考えなさい」 「っ…、ノリト、やっぱり祐司のこと好きなんだろ!?」 何がやっぱり、だ。 わけがわからない。 「おれの好きな奴なんかどうでもいいだろうが」 「よくねぇっ!!」 「おれの感情はおれのものだ。他人の干渉は受け――――」 「俺はノリトが好きだっ!!!」 NEXT * CHAP |