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キス魔笑顔だ。14
※15禁表現※


 大した欠点が見当たらない人間は、大抵同性から疎まれる。

 涼一もそうだった。女子からはキャーキャー騒がれて、男子からはちょっと敬遠されて。

 焦茶頭の言い分を肯定するわけではないが、僕と涼一の繋がりが世間一般で言う「親友」の域を超えている自覚は、少なからずある。

 『なァ、篠原。何で四之宮の親友なんかやってられンの?』

 『何でもかんでも比べて見られンの、ウザくねえ?』

 『お前と四之宮の差なんて実際は殆どねェのに、必要以上に過小評価されてんじゃん』


 極々平均的な運動神経を除けば「完璧」と言える涼一を、女子の目が気になりだす年頃の男子が好ましく思えるはずはなく、中学時代も親友であることを随分と不思議がられた。

 でも、誰が何と言おうと、涼一は僕にとって大事な人だ。

 だって、


 僕 を 救 っ て く れ た 人 だ か ら 。


 汚い言葉で突き放して、罵って、泣き叫んで。

 それでも涼一は僕を見棄てなかった。

 『ねえ、香。今度の模試、白紙で出そっか。…100点じゃなくて、二人で0点とろうよ』

 非のないことで怒りをぶつけられて傷つかなかったはずはないのに、涼一は何故か謝るように笑って、僕を抱き締めてくれた。

 だから、過小評価なんてどうでもいい。傍にいたくないなんて思わない。

 ――背中や頭を『大丈夫だよ』と言う風に撫でてくれた涼一の優しい手を護る為なら、何だってしてみせる――

 あの時、僕はそう誓ったんだ。





キス魔笑顔だ。




「―――…っ、は、‥、」

 酸欠で意識が飛びかけた時、喉元を圧迫していた焦茶頭の手が外れ、ごほごほと咳き込む。

 ここが何科の資料室かはわからないが、滅多に出入りがない所為で空気は埃臭く、必死に酸素を求めた瞬間、気管が引き攣るような感覚に涙が浮かんだ。

「……アンタ、何が、したいんだ、よ…」

 何とか呼吸を落ち着けて、馬乗りになったままの焦茶頭を見上げる。

 最初は憤りしか感じなかったけど、あんな目を見せられたら困惑するなという方が無理だと思う。

 第一、この人が納得する答えを出さなきゃ僕は解放されないだろう。

 力で押さえつけられるのは腹立たしいことこの上ないが、殴られなくても敵うはずないんだから仕方ない。

 ……なんて、呑気に考えていられたのは、そこまでで。

「――――テメェも口先だけなんだろ」

「‥!? は!? ちょ、何!!?」

 絶望を溶かし込んだような目で小さく吐き捨てた。と思ったら、焦茶頭は僕のワイシャツを一気に引き裂いた。

 そりゃもう、何万回と繰り返してきた行為のように、戸惑いも躊躇もなく。

「ちょっ、待っ、何してんだアンタ!?!? やめっ…」

 予想外の理不尽な力に耐えられなかった釦はどこかへ飛んでいき、ひんやりとした空気が肌に触れる。

 僕は思わず身を縮めようとしたが、焦茶頭の手がそれを拒むように両肩を冷たい床に押し付け……。

「っ…、!?」

 首筋を舐められた。

「な、に、…アンタ、頭大丈夫か!?」

 信じられない有り得ないわけわかんない。絶対おかしい。脳味噌腐ってる。

「騒ぐんじゃねぇよ。萎えんだろ」

「萎えっ…!? ふざけんな!!」

 全身を使ってバタバタと暴れるが、貧弱と言える僕に抵抗らしい抵抗など出来るはずもなく、すぐに両手を拘束されてしまった。しかも頭上で、一纏め。

 ……最悪だ。一本対二本で負けていることもそうだが、わけがわからない状態で襲われるなんて冗談じゃない。

「――っから、アンタは何がしたいんだよ!? はっきり言えよ!!」

 この男の思考を理解出来るほど言葉を交わしたわけじゃないけど、目的は僕を襲うことなんかじゃないはずだ。

 最初から僕を襲うつもりだったなら、意味不明な質問で時間を無駄にするとは思えない。

「だから、ナニ、だろ」

「、ぃ゛あ…っ!!」

 ガブリなのかズプリなのかプツリなのか。どんな音だったのかはよくわからないが、確かに皮膚の裂ける音がした。

 酷く痛むそこを無遠慮に舐め上げられ、痺れるような痛みが指先まで走る。

「…つ、…ぁ‥ッ」

「愛がなきゃセックスは出来ない――なんて、ガキくせぇことは言わねぇよな?」

 唇についた僕の血を見せ付けるように舌で舐めとり、嫌味ったらしい笑みを浮かべる焦茶頭。

 傷口の痛みと熱の所為で、僕の頭はパンク寸前だ。わけがわからな過ぎる。

 アンタ、さっきまでの暗い目をどこに落としてきた、って耳元で叫んでやりたい。

「…好きでもない奴を、嫌がらせの為だけに抱くのは、餓鬼臭く、ないのかよ‥」

「ハッ、この俺が抱いてやるって言ってんだ。文句垂れんじゃねぇよ」

「ふざけ、っ…!」

 脇腹を撫で上げられ、思わず息を止める。

 殴られた場所じゃないが、手の冷たさに身体が強張った瞬間、鳩尾に痛みが走った。

 それを皮切りに、今まで忘れていた頬や後頭部の痛みも強くなってくる。

 正直、剥き出しの肌を這う焦茶頭の手や舌の気持ち悪い感覚なんて意識から追い出されるほど、痛い。

 ――でも、慣れない痛みに支配されていた僕を呼び戻す言葉を、この男は平然と吐いた。

「無駄な抵抗すんじゃねぇよ。四之宮だって今頃、世界史の教師と楽しんでるんだぜ?」

「!? ……なん、だって‥?」

「四之宮は世界史の教師に突っ込まれて悦んでる、って言ったんだよ」

「――!!??」

 刹那、頭の中が、真っ白になった。

「どういうことだよ!? 涼一が世界史の教師とって…っ」

「どうもこうもねぇだろうが。淫乱な四之宮は世界史の教師とお楽しみ中なんだよ」

「ふざけんな!!! 涼一は淫乱なんかじゃないっ!! アンタとは違う!!」

「っるせぇな。くだらねぇことでギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ。…嘘に決まってんだろうが」

「は……、う、そ…?」

「何熱くなってんだよ。馬鹿じゃねぇの」

「――――っ!!!」

 顔を歪め、心底鬱陶しそうな表情で吐き捨てる男に、あの男の姿がダブって見えた。

 『親は金持ちだし顔は悪くねえし、面白いからヤッてやっただけ』

 やめろ 言うな

 『マジなわけねえだろ。お遊びだよ。オ ア ソ ビ』

 これ以上

 『お前もアイツも熱くなっちゃって、バッカじゃねえの』

 涼 一 を 侮 辱 す る な


「――――…放せ」

 涼一の優しい手を傷つけようとする奴は、

「俺に触るな。下衆野郎」

 誰であろうと許さない。





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