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キス魔笑顔だ。11



 本当、何なんだ、この学園の連中は。

 顔が良ければ誰に何をしても許されると思ってるのか?

 整った容姿が免罪符になるとでも?

「顔が人間関係の全てを支配すると思ってるなら、今すぐその考えを改めろ!」

 恰好いいから、人気があるから、自分は特別だから。

 だから、見目の劣る奴がどうなろうと知ったこっちゃない、って?


 ――アンタたちはこの場所で一体何を学んでるんだ。





キス魔笑顔だ。




「…………」

「…………」

 ユニゾンの奇声を最後に、口を開こうとしない焦茶頭と洋風美人。

 突然人格が変わったように怒鳴りだした僕に面食らって、口を挟むタイミングが掴めないのかもしれない。

 それでも黙ったままの二人の態度にイラついて、僕の口からは今まで(涼一やゼンちゃんを除く)他者に吐き出すことが出来なかった言葉が流れ出ていった。

「友達、親友、恋人―――人と深く付き合うことに、顔立ちの良さなんて意味を持たない!!」

 人を構成するのは『心』だ。

 『顔』じゃない。

 その人の、その人個人の『考え方』――そこに惹かれて築かれていくものこそが、『人間関係』なのではないだろうか。

「僕らは意思を持った人間だ。挿げ替えが可能な機械でも道具でもない。…煌びやかな外見と付き合ったって、虚しいだけだっ!」

 『恋人』は『恋人』。

 気分で付け替えられる、お洒落なアクセサリーとは違う。

 …でも、どんな付き合い方をするのかは当人達次第だ。

 たとえ傍迷惑なくらい惚気ていても、身体だけで繋がっていても、浮気を許していても。

 第三者である僕には彼らのスタイルに口を出す権利などない。

 それでも、

「アンタたちがどういう過程で付き合うようになったのかなんて知りたくもないが、恋人として最低限の責任くらいとれ!!」

 事情すら知らない人間を一方的に関わらせるのは、絶対、間違ってる。

「アンタが傍に居てやらないから、アイツがくだらない遊びを思いつくんだろうがッ!!」

 ――いや、もしかしたら、柳にとってはくだらない遊びなんかじゃなかったのかもしれない。

 男子校の風習に流されたように、軽い気持ちで付き合っていたわけではないのかもしれない。

 この焦茶頭の気持ちを確かめたくて、自分のことを気に掛けてもらいたくて……。

 そうだと考えれば、告白の相手が『僕』でなければならなかったことにも納得がいく。

 外部生の僕なら同性愛者である可能性が限りなく低いから、嘘の告白をしても本気にされる心配はないと思ったんだろう。


「―――――」


 ………ちょっと待て。

 ということは、つまり、‥何だ。

 最終的にどういうことなんだ?

 頭の高速回転に思考がついていけず、どんな道筋を経てどんな結論が出されたのか、いまいち自分でもわからない。

 …柳とこの焦茶頭は付き合っていて、でも焦茶頭はあまり柳を構ってやらなくて、焦茶頭の自分に対する気持ちを知りたかった柳は、外部生で遊んでやろうというふざけた考えは一切持たず、自分を見てもらいたい一心で僕に嘘の告白をした…。

 つまりは柳が焦茶頭にヤキモチを焼かせたかったが為に起こったことだった、と。

 そういうことなのか?

 そしてこの焦茶頭が僕に声をかけてきた理由は、俺たちは今まで通り恋人の関係を続けるから柳に告白されたからって勘違いして調子付くんじゃねえぞ、とでも釘を刺す為?

 …わざわざ‥?

 もしそうなんだとしたら、僕は声を大にして言いたい。

 放送室に乗り込み、学園中に最大音量で響かせたい。

 『お前ら、何様気取りもいい加減にしろ』と。

 この学園の文化なのか?

 自分たちがよければ他人がどうなってもいい、という傍若無人な考え方は。

 ここを自分の王国だとでも思っているなら、本気で精神科の受診をお勧めしたい。

 一体どこの独裁者だ。

 ――でも、敢えて文句は言わない。

 もう僕の生活が柳によって乱されることはないんだから言っても仕方がないし、何より、折角終わりに出来る不本意な関わりを、ダラダラ文句を連ねることで長引かせたくはない。

 ただ、これからは周囲を巻き込まないでくれと、心の底から願うだけだ。

 ヴ ー ヴ ー ヴ ー

 これで面倒事から解放されると安堵したからか、柳に告白された所為で苦労した日々が脳裏を駆け巡り、疲弊を表す溜め息が零れた時、ポケットの中で携帯が震えた。

「――――げっ!!」

 その振動に気付いた瞬間、顔から血の気が引いていく。

 なんてことだ……。

 涼一を教室で待たせたままだった‥っ!!

 何時だ? 今は何時だ!?

「何を言ったのか自分でもよくわかりませんけど、お互いもう関わり合うことはない、ってことでいいんですよね? じゃ、失礼します!」

 腕時計で確認すると、時刻は昼休みが終わる十五分前。

 二人がどんな表情で僕の背中を見つめているかなんて気にも留めず、僕は猛ダッシュしながら携帯を引っ張り出した。

「もしもしっ? ごめん! 涼一!!」


 この時、もっと余裕を持って理解していれば、あんなことにはならなかったのかもしれないけれど。

 予知能力などない僕に近い未来を知る術があるはずもなく……後悔するのは、少し先のことで。


 ――――心の奥底で胸を撫で下ろしている自分に気付かないふりをしたのは、プライドの高い、愚かな僕。





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