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nap color 1/2





「あったかー……」

 授業もバイトもない日曜日。

 陸海家の主婦こと千早は、取り込んだ布団を抱きしめたままフローリングの床にダイブした。




noisy colors * nap color




「‥ん〜………」

 顔を埋めれば太陽の柔らかな匂いが鼻孔をくすぐり、適度な熱が午睡を誘う。

 課題やらバイトやら家事やらで両親並みに休む暇のない千早は暫し目を閉じて自然の恵みを堪能し、素直な感想を呟いた。

「……ビバ日曜日…」

 綺麗な形をした唇から零れ落ちた声は老人のようにしみじみしており、若い外見と整った顔立ちには酷く不似合いだったが、それは仕方ないだろう。

 北の大地で朝から晩まで毎日働いている両親に比べれば楽過ぎる生活と言えるけれど、現在この陸海家で最も大変な思いをしているのは千早だし、自活している苦学生の友人からも感心されたり心配されたりする程の忙しい日々を送っているのだ。

 心身の疲れを癒している時に出て行く声色のことなど、気に出来るはずがない。

 お前はモデルか何かか、と問いたくなるような服装をする者も多く、「大学生」という言葉は派手に遊んでいそうなイメージを与えることもあるが、華やかな外見に反して遊びの「あ」の字も窺えない生活をしている千早にとって、日曜という休日はまさに「休日」と言えた。

「チーちゃん」

「…ん?」

 今日は万里も百音も十夜も朝早くから出かけており、帰りは夕飯時。

 それまでは静かな時間を過ごせる、と心の底から穏かな休日を喜んでいた千早は、ふいに可愛らしい声で名を呼ばれ、布団に埋めていた顔を上げる。

「レー、どうした?」

 心地よさに身を任せていた所為か全く気付かなかったが、零音がすぐ傍にちょこんと座っていた。

 昼食後には宿題をやると言っていたから分からない問題でもあったのかと首を傾げると、小さな顔が左右に振られる。

「ううん、しゅくだいはちゃんとおわったよ」

「そっか、お疲れ様。頑張ったな」

「うんっ」

 微笑みながら頭を撫でてやれば満面の笑みが浮かび、千早も愛らしい妹に更に優しい笑みを向けた。

 一番年下の兄弟を一番甘やかしてしまうのは恐らく大抵の家族に言えることだろう。

 陸海家も小学二年生になったばかりの零音を全員で可愛がっているが、誰より零音を大切にしているのは千早だった。

 両親が職場を北の大地に移したのは今から約五年前、千早が十五歳の時。

 つまり、零音がたった三歳の時だ。

 二人共医者である上に兄弟も多く、両親との思い出が山ほどあるというわけではないが、それでも両親の住む家で一緒に過ごした時間は零音の五倍にあたる。

 しかも、単純な「五倍」ではない。

 幼稚園にすら入園していなかった零音と安易に比較することは出来ないだろう。

 だから……だからこそ、千早は零音に両親が居ないという淋しさを感じさせないよう、進んで主婦をしているのだ。

 母親がいないから、父親がいないから―――そういった不便も感じさせてはいけない。

 勿論、零音以外はどうでもいいというわけではなく、自分より年下の三人にとっても両親のような存在でなければならないと思っている。

 本来その役目を負うべきである長子は当然の如く別――蚊帳の外――だが。

「レー。ここ、おいで」

 幼い頃から両親と離れ離れで過ごしているにも関わらず、実に素直で明るい子に育ってくれた零音を手招き、千早は遠くにいる彼らに代わって可愛い妹を抱き締めた。

 苦しくない程度に、けれど力一杯。

「必殺! 愛の抱き締め攻撃〜っ!」

「きゃ〜〜っ!!」

 腕の中で可愛い悲鳴が上がり、千早はぐりぐりと少々乱暴に頬擦りをする。

「うははははっ! どうだ、参ったか!」

「まいんないもんっ。レー、つよい子なんだからっ!」





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