長編
丸め込まれてしまったような
「左近……」
「そ。これからよろしくな、勝家」
左近が今までの艶美な笑みとは違う、無邪気な顔で勝家に笑いかけた。
やはりこの男には人を惹きつける何かがあると思う。
ギャップを上手く利用しているというか、駆け引きが上手いというか。
人の心にするりと入り込んで、内側から心を開かせていく。
それを理解していながらも、勝家はすっかり左近に対する警戒を弱めていた。
「…ああ。たまになら話してやっても良い」
「絶対あんたを手にいれてみせっから」
勝家の言葉に左近は苦笑いしてから、きっぱりとそう告げた。
まるで宣戦布告をしているかのような物言いに勝家の顔もほころぶ。
左近は手を振って「おやすみ」と言うと霧のように消えてしまった。
それと同時に勝家の意識も途絶え、左近の居ない別の夢の世界へ落ちていった。
「もうこんな時間か……」
目覚めた時には窓の外は暗くなっていて、ポツリと呟いた。
夕食を食べる気にもなれなくて、ベッドの上で四肢を伸ばす。
ボーッとしているとなんとなく左近の事を思い出して、1人で恥ずかしくなった。
あの男と、キスをした。
そしてあろうことか気持ちいいと思ってしまった。それが妙に気恥ずかしくもあり、情けなくもあり。
「完全に思う壺じゃないか…!」
目を片手で覆い、苦い顔をした。
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