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墓守の元へ

 シティラーが謎の少女に連れて行かれたと言う、ユールの話。そして少女について詳しく聞いて思い出されるのは、一ヶ月ほど前のフィルミーでの事件だった。
 黒幕であったルーズ=ノゥル大臣を殺し、“いかにしてモンスターが発生したか?”“なぜメアル・ライサーは魔術を扱えるようになり、いかにして操られたのか?”という様々な謎を謎のままにさせた――そしてリースの少女に関する記憶を消して去った、リースの知り合いだったらしい少女。
 恐らく彼女が関わっている。そう理解した途端、俺は自嘲めいた笑みをふと零した。
 ぱっちりとした瞳と、緩くウエーブのかかった肩ほどの茶髪。一見すると、俺より少し年上のどこでも居そうな少女だった。しかし少女はにこにこと楽しげに笑いながら、ルーズ=ノゥルをその手にかけた。そして事件の跡形もなく、少女は消えた。また会おうと言う言葉を残して。
 だから俺をここに連れてきたのは彼女かもしれない。
 そしてもし彼女なら、絶対に逃がさない。だって、まるでお遊びのように人を殺す奴なんて許せる? もちろん俺は許せない。俺だって、許せない。
「ユール、探すよ」
「何をだ?」
「そりゃもちろん、前魔法会長の墓をね」
 まるで何でもないような顔をして扉を見ていたユールに、俺は少し胸を痛めながらそう続けた。
 たぶん、その向こうに居る店長を心配しているんだろう。らしくない、とは思わない。フィルミーでも、ユールのそんな一面は何度か見たし。だからただ、その気持ちを思うとやるせなかった。
 俺だって店長を助けたい。でも俺はそういった類の術を使えない。それに、消えた町の人たちも気になって仕方がない。そして――目を閉じて過ぎるのは、ご飯を奢ってやったニッケのこと。笑いながら人を手にかけた、あの少女のこと。
 だから早く、あの少女を捕まえて色々吐かせてやるしかない。
「確かにそれしかないが、探すって言ってもどうやってだ?」
 考えるようにしていたユールが、俺を見上げてそう言った。もっともな疑問だけど、正直そんなことは俺だって分からない。
「んー、まあ墓地に行くとか?」
「墓地なんてねえな」
 あっさりと答えられて、さっきからしゃがんだままのユールを蹴りそうになる。……リースに影響されてる? いやあ、まさかまさか。
 俺はじとりとしたユールの視線を流しつつ、ふと思う。
「墓地がない?」
「ああ、この周辺にはな」
「……それさ、おかしくない?」
 生まれる人間があれば、死ぬ人間も居る。それはこの町でも同じな訳で、墓地がないのは少し変だ。
「今まで考えたことはなかったが……まあ、普通はあるだろうな」
「だよね? やっぱ遠くにあるとかかな」
「町周辺に土地が余るほどある上で遠くに墓地を作るなんて、そんな面倒なことをするか?」
 思わず想像したのか、ユールが眉を顰めて言う。
 確かにユールの言うとおりだ。こんなに町の周りに土地があるんだから、わざわざ遠くに作るなんてめんどくさがりなじゃない人でもめんどくさい。
「確かに。“魔法会長の墓”ってのを聞くところ、なんか接点ありそうな気がするんだけど……」
「今は何も分からない」
「……はい、そーです」
 俺は苦笑して肩を竦めた。


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