さようなら、こんにちは
「何が?」
「もうすぐ秘書サンの魔力が全快に近い状態に――」
「それなら分かってる」
俺はホワイトの言葉に肩を竦めた。
一言では言い表せないが、ホワイトとはフィルミーを旅立った辺りからの付き合いである。しかし出会ってからも俺の元に居たり居なかったりで、前に会ったのはスティレイクを出る直前だった。訳合って俺の考えを彼(?)は知っている。だから心配して忠告しに来てくれたんだろう。
でも俺だって分かってる。そろそろ出なくちゃ、謎は謎のままだ。
スティレイクには絶対に何かがある。だってあんなに偶然が重なるなんて、あり得るはずがないから。
「でも戻るなら、体力使い果たすなよ? 何があるか分からねーんだし」
「レックから逃げ切るには、全力じゃなきゃ駄目だと思うけどね。それに俺は、自分の謎とかを解明できれば良いんだし……だろ?」
どうやら心配しているらしいホワイトににっこりと笑うと、ううんと唸られた。どうやら何か不満があるらしい。何を渋ってるのかは知らないけど、まあ仕方ないんだから仕方ないだろう。
とその時、向こう側から足音がした。そして俺の名前を呼ぶ声がする。それがリースだと分かった瞬間、俺はぴたりと固まった。
「わ、忘れてた!」
「あの姉ちゃんを?」
きょとんとして首を傾げる憎らしい梟に、言いようもない苛立ちが募る。耐え切れなくて、俺はびっと指を突きつけた。
「なんでお前は突然現れたんだっ」
「はーあ? 今更何を……ってそもそも、俺は忠告しに来てやったん」
「だって喋る梟がペットだとか言えないし」
「俺はペットじゃねーっつの」
「問題はそこじゃないんだって!」
俺は、自分の奇怪さが分かっていない喋る梟相手に頭が痛くなる。頼むから、誰かこの梟に常識を教えてあげてください。
リースになんて説明しよう。こいつ実は人形ですだなんて言うの? いや、でもさっき自分の意思で喋ってるの見られたし……。と考えれば考えるほど、解決策がなくてぐるぐるとドつぼに嵌ってく。
「喋るけど気にすんなって言えば」
「あのね、喋る梟ってのがまずい、」
ぐらり、と世界が揺れる。
続くはずの言葉は喉元で消えた。
体が動かない。
この感覚は、数日前にスティレイクのシティラーの家に向かう時に襲ったそれ。視界の端には、真っ黒な鳥が見えた。普通の鳥なら反射するわけがないのに、太陽の光を反射する黒い鳥。
やっと思い出した。俺はかつてこの鳥を、フィルミーに居た時も見ている。あの時は日の光でなく月の明かりだった。
引き込まれていくのが分かる。きっと、操られてるんじゃない。体の芯が持ってかれるような感覚がする。
――ノリィ・ラック!?
どこか遠くで聞こえたのはホワイトの声。霞む視界いっぱいに白があった。
動かないはずの拳を、ありったけの意思をもって握った。
「俺を誰だと思ってる?」
きちんと声になっていたかは分からない。でも俺は出来るだけ、不敵に笑ってみせ――次の瞬間には、もう意識が飛んでいた。
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