[携帯モード] [URL送信]
雪舞う聖なる夜

 ◆

 終わった、と無愛想に告げたユールは、ぽいっと塗り薬を投げてきた。俺はそれを受け取ってコートのポケットに入れる。リースと一緒に行動するようになってから、俺はこの打撲用の塗り薬を常備している。まあ頭だから、あんまり髪につかないように人に塗って貰わないとだめなんだけど。
 ちなみにいつもは、自分のやったことにちょっと反省したリースがするんだけど、さきほど出会った女の子に構っているのでユールがしてくれた。
「……なんだかなあ」
 ぼやきに、ちらりとユールが視線を遣す。
「リースだから仕方ないな」
「うん、そうなんだけどね。俺ばっかりだなってさ」
「避ければ良いだろ?」
「逆に言うけど、なんで避けれるのさ?」
 あれはほとんど不意打ちである。しかしユールはいつもひょいっと避けてしまうのだ。殴られたり叩かれたりしたのはまだ見たことがない。
「慣れ」
「……そうですか」
 最初っから避けてませんでしたか、ユールくん。
 俺はもういいや、とリースと少女の座るテーブルの方を見遣った。なんだかあの少女、異性と喋るのはかなり苦手なようで、こうやって別々に座ることになったのだ。
 しっかしかなり時間が経ってるが、何をあんなに話し込んでいるんだろうか。彼女は必死に話してるし、リースは親身になって頷いてるし。
 と、視線の先のリースが立ち上がった。
「私達で良ければお力になりましょう」
 何故か気合が入っているようにも見える。そうかー、私達か。私た……って私達?
「あのー、リースさーん? なんか言葉が多いと思うんですけ」
「今日は聖なる日。そのような日にお会いしたのは何かのご縁でしょう。もちろん、見捨てて立ち去るようなことは致しません」
 にっこり。綺麗な笑顔がこちらに向けられる。
 そこまで言われたり半ば脅されたりしたら、もちろん首を縦に振る他ない。まあ、隣からぼそっと「めんどくさい」と聞こえたような気はするけど。ユールってどれだけ勇気あるんだろうなあ……いや、むしろ俺はなんでリースに弱いんだ?
 などと首を傾げていると、いつの間にかリースが俺らのところまで来ていた。俺はぎょっとした。速さというより、その剣幕に。
「ユール、あの娘の男性嫌いに拍車をかけることをしないでほしいんだけれど」
「俺は別にかけたつもりはない」
「そうかもしれないけれど……相手を考えてくれる?」
 少しきつい言い方されたユールは眉を顰める。ちらりと少女の方を見て、溜息混じりに肩を竦めた。
「なら俺は関わらない方が良いだろうな。気にするつもりがもしあったとしても、出来ねえだろうからな」
 ユールはそう言うと、席を立ってくるりと踵を返した。ひらひらと手さえ振っている。つまり本気らしい。
 確かにユールは面倒事は嫌いだし(俺もめんどくさ過ぎることは嫌いだけど、ユールほどではない。むしろ大体の面倒事は好きである)、言うことは正しいと思う。ユールが人を四六時中気にかけるなんて無理だろう。
「ちょっとユー」
「はい、待った。俺だけじゃ不満?」
 彼を追いかけるかのように少し伸ばされた手首を掴んでにこりと笑う。咄嗟だったため、聊かゼロ円スマイルだが気にしてはだめである。
 リースは手首を見て、それから俺を見た。ちょっとだけ困ったように眉が下がっていて、俺は内心苦笑した。もしかして不満なのかも。
「不満とかじゃ、ないんだけれど」
「うん?」
「彼女の事情はあまり知らないの。けれど男性嫌いの克服になればって思ったの」
「そっか」
 俺は少しだけ残念そうにつぶやくリースを見て、ただそう返した。……俺は、この騎士のこういう性格をけっこう気に入ってる。


[*back]

2/2ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!