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短編小説(オリジナル)
1 首絞め/ほぼ本番










幼い頃から、ずっとここにいた。
金を払われ男達に好き勝手されることが、世間で何と言われているのかさえも知らない頃から。



「凛、ずっと、ずっと逢いたかったよ…今日も綺麗だ」

「んっ、僕も、ずっと逢いたかった…」


生まれつき容姿には恵まれていた僕は、客をとれば大抵の男が自分に落ちた。
世間で言われる『お偉いさん』が易々と自分に落ちていく様は、なんとも滑稽だった。

男娼を続けてきて、この辺りでは僕を越える者はいないだろう。
汚れきった世界でも、それが唯一僕の誇りでもあった。










―――――…


「…つまらん」

「ぅ…あ…、申し訳ありません…、では、僕の中に…」

「もういい、止めなさい」


こんなことは初めてだった。
今日の客はいつもの客と何か違う。
大体の客は、僕の奉仕に夢中になり、今か今かと喜んで抱くものだ。
ところがこの男はどんなに僕が相手をしても冷ややかな視線を向けるだけ。

変わった客は何度も見てきた。
プロをなめてもらっては困る。

「奉条様、僕は今夜…奉条様だけのものです、何なりと…」

肩を露出させ、誘うように着物を更に肌蹴させる。
奉条は着物から飛び出る白く細い足を目を細めながら見つめる。
僕は内心にやりと笑んだが、顔に出すことなくベットに腰掛けた奉条に跨り自らの唇で唇を塞ぐ。

「奉条様…っ、僕、奉条様にいっぱい愛されたい…」

キュッと首に手を回し、僕は耳元でそう囁いた。
奉条は挑発されたままに、僕をグッと引き寄せると顔の角度を変え、何度も唇を合わせた。

「ん、ん、…、奉条…様…っ」

わざと甘い声で名前を呼んでみる。
客はこれに弱い。

…筈だった。

「その声、耳障りだ」

唇が離れ、目線が合わさると奉条はフッと目を細め冷たく言い放つ。


「……え?」

「演技をして、男を落としては腹の底で嘲笑っているんだろう?」

「そんなこと…っ」

「そんな分かりやすい演技で落ちるようでは、嘲笑われても仕方ない、か」

奉条の長い指が僕の顎を掴み、グッと引き寄せられる。
黒く、綺麗な瞳が刺すように僕を見つめる。
この男はただの客ではない、そう感じた時には僕はもう見えない何かに捕らえられていた。――



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あきゅろす。
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