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短編小説(オリジナル)
3








―――…


家に帰ると、奈津がいなかった。

もう寝たのかと思い、僕はソファに荷物を置く。
もう夜の7時だ。
いつもなら奈津がご飯を作り終わっている時間だ。
今日はお父さんも帰って来ている筈なのにお父さんもいない。
ざわつく気持ちを抑えながら、僕はフゥと息をつく。

ガチャッとドアの開く音がした。
振り向くとお父さんが真面目な顔をして、僕に近づいてくる。

「おかえりなさ…っ」

パンッという音と同時に頬に痛みが走り、僕はソファーに倒れこんだ。
じりじりと頬に痛みが広がる。

「利津、奈津は今日からまた入院することになった」

「………え?」

「お前が遊びに行っている間に奈津が発作を起こした、お父さんが帰ってくるのが早かったからすぐに病院に行けたけど、いつもみたいに遅かったら大変なことになっていたんだぞ。原因は心情的なものだ、奈津はストレスを感じると症状に出やすい体質なんだ、目も腫れるくらい泣き続けて呼吸が苦しくなったことも発作に繋がったと思う」

お父さんの低い声が体中に染み渡るようだった。
僕は怖くなって何も言葉が出なかった。

「利津、奈津が前に入院した時、誰よりも退院を楽しみしていたのは利津だろう…?なんで、奈津を1人にして遊びに行った?今の時期、いつ発作が出るかわからないのを利津は知っていただろう」

…知っていた。
知っていて冷たくした自分に酷く後悔が襲う。
ずっと下を向いたまま僕は黙り込む。

「喧嘩をしたのなら許してあげなさい、奈津はお前みたいに外で遊べない、発散する場所が限られるからイライラする時もあるんだ、ずっと一緒に過ごしてきた同じ顔してる双子の兄弟なんだ、少しは奈津の気持ちも分かるだろう?」

僕はハッとして掌をグッと握り締めた。
震える唇をゆっくり開ける。

「……わかんない」

「…なんだって?」

お父さんに強い力で服の襟を掴まれて上を向かされる。
冷たく見下ろすお父さんの目と僕の目が合った瞬間、僕の目の奥がじわ、と熱くなった。

「利津、いい加減にしなさい」

僕はお父さんの強い口調に目に涙を浮かべながらギリッと歯を食いしばる。

双子、双子って、だから何だ。

いつでも一緒って誰が決めた?
奈津のために生きなきゃいけないってことなの?
そのために僕がなんでも我慢するの?


お父さんなんて、結局は奈津のことしか考えてない、奈津のことしか愛してないくせに…。

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あきゅろす。
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