短編小説(オリジナル)
2
「駒川くん、そこの掃除終わったら終わりでいいよ」
「はい」
他の人は皆帰ってしまい、店には俺と店長の2人きりになってしまった。
仕事中に“店長命令”はでていなかった。
やっていることは普段と一緒だし、何も変わっていない。
「……なくなったのかな?」
不思議に思い、俺は首を傾げた。
さっさと掃除を終わらせ、ロッカールームに向かう。
「あー、疲れた」
「お疲れ様」
「あ、店長」
店長はロッカーに寄りかかって腕組みをするとにこっと微笑んだ。
俺は苦笑しながら自分のロッカーの前に立つとエプロンを外す。
「えっと、今度からは気をつけます…」
「何を?」
たどたどしく喋る俺に店長は珍しく冷たく言い放った。
優しい店長もさすがに怒っているのか、怖くて顔が見れない。
「えっ、だから、えっと、遅刻しないように…」
「駒川くん」
「はいっ」
思わず勢い良く振り返ると、店長はいつも通りの笑顔で自分の目の前の床を指差した。
「ここに正座」
「…は、い」
俺はロッカーの中に乱暴にエプロンを突っ込んで、扉を閉めた。
ゆっくり店長の前まで行き、膝を着く。
「遅刻何回目だと思う?」
「わ、…かんないです」
正座をして下を向く俺の顎を、店長は手に持ったボードで上げる。
上を向かされた俺は店長の冷ややかな視線に見下される。
「それってわかんないくらい遅刻してるってこと、だよね?」
「う…」
店長にピタピタと下から顎をボードで叩かれる。
目が泳ぐ俺に店長はしゃがみこんで思い切り肩を押す。
「今日でちょうど30回目」
押されるがままに仰向けに倒れた俺の上に店長が覆いかぶさった。
店長の髪の毛が頬に当たる。
くすぐったくて目を瞑ったらぐいっと顎を掴まれる。
「な、なに、…店長?」
「謝れば済むって思ってるでしょ」
図星すぎて、思わず固まる。
その前に店長がこんなに冷たい目をすることに驚く。
「いえ、そんな…」
「30回分、言うこと聞けよ?」
ふ、と笑った唇がそのまま押し付けられる。
「うっ、んんん」
何度も角度を変えて押し付けられ、しまいには舌が入り込む。
どうしていいか分からず、ひたすらその行為に耐えた。
俺が喉の奥に流れ込む唾液に思わずむせ返ると、やっとその行為は終わる。
「もっと抵抗するかと思った」
口元を拭う俺に向かって店長は楽しそうに言った。
きっと目の前に居るのは店長じゃないんだ。
こんなのが店長な筈がない。
悪霊?もしかして店長に化けてるとか。
「誰だよ、お前…」
「え?」
店長はキョトンとした顔をするとそのまま笑い出す。
今度は逆に俺がキョトンとするはめになる。
「……おい!お前、店長じゃないだろ!」
「本当、駒川くんって面白い」
面白くてたまらないというように店長は肩を揺らす。
「そんな風に生きてるから、こうなるんだよ」
その言葉と一緒に、俺の視界は布に覆われた。
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