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短編小説(オリジナル)
1 拘束/無理やり








「吉枝くん」

「はい」

「待たせちゃってごめんね、これ、この間のプリント」

「あ…、有難う御座います」

塾講師を始めて、もう3年になる。
大1の時からやっているから、もう俺も大体の生徒は把握しているし、塾長にも色々任されていた。
兄のように慕ってくれる子もいれば、俺が声をかけると顔を赤くするような子もいて。
特に何も思わないけど、昔の自分を思い出してみたりして何だかんだ楽しんでいる。

特に生徒達に干渉するつもりはなく、バイト代の為に続けていた塾講師も最近なんだかもやもやとする。

「じゃあ、…えっと、さようなら」

座ったまま、ぺこっと頭を下げ、吉枝くんは帰りの支度を始める。
まだ秋になったばかりで、半袖の子もいるなか、吉枝くんは上着の長袖をギュウギュウと伸ばして手の甲まで隠している。
授業中も気がつけば袖で手を隠し、暗い表情を浮かべているように見えた。
厄介なことに首を突っ込む方ではないし、干渉するつもりはない、といいつつも俺は吉枝くんが放つ何とも言えない雰囲気に胸をざわつかせていた。

「ね、吉枝くん」

俺は近くにあった椅子に腰掛けて吉枝くんの肩に手を伸ばした。

「ッ…え、あ、…なん、ですか?」

指先が触れただけでかすかにビクッと肩を揺らし、少し動揺したようにこちらに目を向ける。
何でもないように振舞っているつもりだろうけど、どう見ても様子がおかしい。
受験生だからストレスでも溜まっているのだろうか?
俺は不思議でしょうがなかった。

「いや、別に何もないんだけど…長袖暑くないの?」

2人きりの教室で、しんと沈黙が走る。

「………あ、…別に」

腑に落ちない答え。
そんな中、吉枝くんの携帯が鳴った。
ビクッと身体を震わせて、焦っているかのように帰りの支度をする手を早めた。

「じゃあ、えっと、僕、帰ります…」

さっき渡したプリントも急いでファイルに詰め込んで、鞄にしまう。
袖を気にしてる場合ではないのだろう、そのことをすっかり忘れて吉枝くんは去ろうとした。

「吉枝くん、ペン忘れてるよ」

机の上に残されたペンを拾って、俺はゆらゆらと揺らして見せた。
吉枝くんは急いでこちらに戻ってくると、それを掴もうと手を伸ばす。

「ありがとうござ……あっ」

吉枝くんの腕は上着の上からでもわかるしなやかとした細さで、俺はその腕をぐいっと掴み寄せるとぎゅうぎゅうと引っ張られてくたくたになった袖を捲り上げてみた。

「やっ、先生、離してっ」

「痕…?」

「おねが、離してってば…ッ」

白い手首には縄でぐるぐると縛られていたであろう形跡が残されていた。
事件のような非現実的なものを目の当たりにして、俺の心臓はドクドクと音を立てる。

「吉枝くん、これ…」

「とっ、友達とっ、ふざけて、それでっ…お願いっ、離して…っ」

「ふざけて出来た痕で、なんでそんなに震えてるの?」

「おねがい…だから、離して…っ」

吉枝くんの目から、ポロリと涙が落っこちた。

「もしかして先生、ヤバイもの見ちゃった感じ?」

「ちが、…先生、許して、も、行かなきゃ…」

「先生が送っていくよ」

吉枝くんは驚いたように顔を上げて、俺を見つめるがすぐに下を向き首を振る。
何か引っかかる。


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あきゅろす。
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