短編小説(オリジナル) 8 「松野、傷つけてごめん、本当にごめん」 「だから、ええって」 「松野は何も悪くないのに、ごめん、ごめんね」 「ええって」 「松野が好きだ」 「だから、え……、え?」 キョトンとする松野にキスをする。 顔を真っ赤にする松野が恥ずかしそうに顔を背けた。 「ずっと、松野が好きだった……、嫌われるのが怖くてずっと隠してた、だから昨日は勢い余って…ごめん」 松野を正面から抱きしめて、肩に顔を埋めた。 正直、こんなに素直な松野に嘘をつき続けるのも申し訳なく思えてきた。 すっぱりとフられても別にいいと思った。 「せんせ、それ…多分両想いやで」 ポン、と頭に松野の手が乗せられる。 思いがけない返事に顔を上げて松野を見つめる。 心臓がドキドキと高鳴る。 「本当に?」 「彼女にフられてめっちゃ落ち込んだけど、考えてみれば鈴谷せんせと喋ってて楽しかったからメール返すの忘れてたの、オレやし……んっ」 たまらずに松野を押し倒して、唇を合わせていた。 角度を変えて、何度も。 松野は抵抗せず、応えてくれた。 「どうしよう、松野、嬉しい、好き」 「…あほか」 唇を離すと、松野が照れた顔をして目を逸らす。 恥ずかしがっている顔まで可愛い。 「……オレかて、せんせに襲われた時、嫌じゃなかったし、嫌われたくなくてあんまり抵抗出来んかった…」 「松野…」 「鈴谷せんせ、好き…」 首に手を回され、松野から唇を押し当ててきた。 互いの心臓の音が聞こえる気がした。 後日、いじめはなくなったとの報告を耳にした。 いじめをしていた生徒達は学校から謹慎と厳重注意を受け、松野にも何度も謝らせた。 優しい松野は、彼らを殴ることも罵倒することもなくあっさりと許した。 松野は元はといえば明るくて良い子なので、クラスの中でもすぐに人気者になった。 男女問わずモテるようで、相談室の外でも彼の笑顔を見ることが増えた。 「アッ、あ、せんせ、…あっ」 「松野…、好きだよ」 「あぅ、あっ、オ、レも…ッ、あっ」 ただ、 俺と松野が交際していることと、2人きりの相談室で行われていること。 それは俺と松野だけの秘密だ。 end. [*前へ] |