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紅の女神
◇◇◇◇◇

 朝餉を前にハグイとアサヒが話していたとき、

「え?」

 顔をあげたアサヒにハグイは撫でていた手をおろす。

「どうした?」

「いえ、その…。なんだか胸騒ぎが…」

 そう言って、心の臓あたりの服を掴む。いつもより大きく鳴っているのが分かった。

「…センヤ?」

 口から出た言葉にアサヒ自身が驚く。

(彼の元へ行かなければならないような気がするのはなぜ?)

「アサヒ、行きなさい」

 ゆっくりと横を向いたアサヒの赤い瞳に映ったのはハグイの優しい笑顔。
 アサヒが幼い時から大好きな父の顔。

「……はい!!」

 いつでもアサヒの欲(ほっ)する言葉をくれる父に感謝しながら立ち上がる。 たった一言だが、その言葉に押されるようにアサヒは部屋を出ていった。
 それと入れ代わりにウルイが入って来た。

「…父上、アサヒはどうしたのですか?」

 小さくなるアサヒの背を見つめながら尋ねるウルイの頭に、一つの考えが浮かぶ。

「まさか…」

「やめろ!!」

 アサヒを追いかけようと体の向きを変えたウルイに、ハグイの怒声がとぶ。

「アサヒはお前のモノではない。あの子の気持ちも考えなさい」

 まるで幼子を諭すように言われたウルイは、ばつが悪そうにハグイから顔を背けた。

「…早く朝餉を食べないと冷める、と言ってももう冷めているなぁ」

 苦笑めいた笑いを顔に浮かべながら、ウルイに座るよう促す。

「たまには二人の食事も良いだろう」

 笑うハグイにウルイは、そうですね、と小さく返した。

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