紅の女神 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 「父さま……私」 思い詰めたような表情でハグイを見つめるアサヒ。ハグイは安心させるように軽く頭をたたく。 「お前がそんな顔をしても良いことは起きない。全ては満月の夜に解る」 「満月の夜……?」 満月まで後四日。 その時には今ある不安や苦しみも消えるのだろうか――? 「アサヒ」 「はい」 名前を呼ばれ、居住まいを正す。 しばらく見つめられ、アサヒは何を言われるのか分からず、心の臓がうるさく鳴っていた。 目をつむった顔のまま黙っているハグイに、アサヒは不安になる。 ようやく発された言葉は意外なものであった。 「一度、センヤどのと話し合うと良い」 まさか父親に言われると思っていなかったアサヒは突然の言葉に目を丸くする。 「出会ってまだ一日しか経っていないのに、こんなにいろんなことがあったんだ。お互い自分が思っていることを話すと良い」 確かにハグイの言う通り話し合うべきだろう。 (センヤに昨日、父さまから聞いたことを言わなければならないわ) どんな顔をして会えば良いか分からないが、今はそのようなことを言っている場合ではない。 「はい、父さま。センヤと…話すわ」 ハグイは微笑むともう一度、頭に手をやった。 「我も…母さまもついているから。お前は大丈夫だ」 優しい声にアサヒの胸が苦しくなる。 唇が震え、上手く声が出せなくて俯(うつむ)く。 そんなアサヒの頭をハグイはゆっくりと撫でた。 それは暖かく慈愛に満ちており、アサヒの心を穏やかにした。 第伍章・終 [*前へ] [戻る] |