紅の女神 ◇◇◇◇◇◇◇ 汁物に干した蛤(はまぐり)、炒った大豆などが敷物の上に一人分ずつ、円になるように並べられている。 アサヒはいつもの場所に座ると、他の者が来るのを待った。 だが、いつまでたっても現れない。 「遅いですねぇ。これじゃあ、朝ご飯が覚めてしまいますよぉ…」 アサヒの後ろに座っているマナセが痺れを切らして口をひらく。 「そうね…。マナセ、みんなの様子を――」 見に行ってほしい、と頼もうとしたアサヒの口が止まる。 「アサヒさま!!」 モミジが現れたのだ。 キョロキョロと、朝餉の用意ができた部屋を見回すと、小さくため息を漏らした。 「どうかしたの?」 アサヒの言葉に、モミジは首を傾げ、 「センヤさまが消えてしまったのですよ。こちらに来ているかと思ったのですが…。違ったみたいです」 センヤ、の言葉にアサヒの肩がぴくりと震える。 「…そうね。ここには来ていないわ」 「センヤさまだけでなく、ハグイさまもウルイさまもいらっしゃらないんですね」 「センヤどのとウルイならじきにここに来る」 突然、現れた人物に三人は驚く。 「おはようございます、父さま」 アサヒの挨拶に、ハグイは笑顔を向けて返す。 アサヒの隣に座ると、モミジとマナセに、 「センヤどのとウルイを連れて来てくれないか?」 「え?でも、今もうすぐ来るって…」 マナセが思ったことを口にする。それを聞いてモミジが小突く。 ハグイは笑いながら、 「あの二人のことだから、来ると言ってもいつ来るか分からないからな」 「はぁ…」 わけが分からないというマナセに対して、モミジは察したのかマナセの首根っこを掴むと、 「分かりました。では、失礼します」 「え……ってぢょ…ぐ、ぐるじ……」 ずるずると、後ろに引きずられていくマナセの苦しげな声とともにモミジは部屋を後にした。 後に静かさだけが残される。 [*前へ][次へ#] [戻る] |