紅の女神 ◇◇◇◇◇◇◇ アサヒが産まれるにあたって、何かが起こることは分かっていた。 このクニの大巫女が予言したのだ。 ただ、あまりに曖昧であった。 吉兆なのか? 凶兆なのか? だが、今まで大巫女の予言が違えることはなかったし、ヒサノメも何かが起こると夢で見ていた。彼女も元巫女であった。 最も信頼する妻までも何かがあると言い出したのだから、ハグイはこのクニの神、ヤガミのもとへ向かった。 ヤガミは何かを知っている。だが、詳しくは教えてくれなかった。 一つだけ気になる言葉を投げかけて。 <そなたにとって辛い状況になったとしても、それは既に定められていたこと。無駄なあがきはクニに禍(わざわい)を招くと思え> きっと、このことであったのだろう。 神は有能であって、有能ではない。そして、誰に対しても平等。 ヤガミに対して恐怖を抱いたことはなかった。だが、初めて恐怖を感じたことであった。 きっと、ヒトに欲があるように、神にも欲があるのかもしれない。 ハグイが耳をヒサノメの口元にもっていくと、嬉しそうな声で一言。 ――幸せよ あなたと出会えて、結婚して、アサヒが産まれて。 いろいろあったけれど、わたしは最後の最後まで幸せだったの。 第志章・終 [*前へ] [戻る] |