紅の女神
◇◇◇
「モミジ!!」
はやる気持ちを押さえることができずに、アサヒは部屋の出入り口に垂らされている織布を勢いよくあけた。
――だが、部屋には誰もいなかった。
「アサヒさま」
後ろで声がした。振り返ると、そこにいたのはこの部屋の主。
「よかった。捜していたのですが、なかなか見つからなくて」
モミジはアサヒに寝台に腰掛けるようすすめる。何も言わずに従うと、モミジは話し始めた。
「あの…すみません。センヤさまはまだ戻っていないです」
「え……?」
「でも、必ずハグイさまと共に戻って来ます」
モミジの話しでは何があったのかが分からない。それでも、戻ってくるという言葉が偽りではないという事が伝わる。
顔を下に向け、黙ったままのアサヒを、オロオロと心配そうに見つめる。
「アサヒさま?」
「……ごめんなさい。何があったのかは父さまに聞くわ」
そう言うと立ち上がり、モミジの前に立つ。そしてモミジの手をとり花が綻んだような笑みを浮かべ、
「モミジ、ありがとう」
アサヒの笑顔にモミジの胸がぎゅっと詰まる。手を握り返しながら、
「いいえ!あたし何の役にも立ってないです。……だからお礼なんて――」
モミジが俯くと、何かが落ちた。
「モミジ…?」
驚いたアサヒが顔を覗こうとするがモミジは逸らす。
「悲しいとかじゃないです。なんだか…初めてアサヒさまに会った時を思い出して……。あの時も、こんな風に手を握って――」
そうだ。
初めて出会ったときも手を握ったのだ。
今のように優しく微笑み、
『ありがとう』
小さな腕でモミジを抱きしめた。
「あの時からあたしどんな時もアサヒさまの傍にいようと、役立とうと。でも、今…は」
中途半端に途切れる。
アサヒがモミジを抱きしめたのだ。
「私はモミジが傍にいてくれるだけで幸せよ。…ありがとう、本当にありがとう――」
アサヒの言葉が震える。モミジの背中にまわる腕に力が入った。
モミジもアサヒの背中に手をまわし、抱く腕に力を込めた。
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