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紅の女神
◇◇

 曇天に見舞われたと思った途端、一気に雨が降り出す。
 その中をアサヒは無我夢中で走っていた。

 どうすれば良いのか分からなかった

(私がセンヤの言う娘なら、私はセンヤと一緒になるべきなの?……でも、そうすればクニが――)

 滅びる

(…私は紅玉を、父さまや兄さまやモミジ、そしてクニの人たちを護りたい!!)


 …でも……センヤは?


 アサヒの足が止まる。右にはヤガミのいる洞窟ヘ続く道。

「…センヤはどうして紅玉に来たの……?」

 右を向いて小さく呟くアサヒの頬に、雨ではないものが伝う。
 雨を吸い上げた衣以上に心が重い。
 アサヒは重い足どりで、今度は一歩一歩、歩み始めた。
 雨で泥になった地面を気にせず走ってきた為、裳の裾に跳ねた泥がこびりついている。
 履(くつ)にも雨が染み込み、もはや履の役割を果たしていない。


(私にできることは…ある?)

 この状況から逃げ出したかった
 誰にも、何にも縛られることのない場所へ

 ふと、アサヒは思った。

(もしかして、誰かが私をこの場から連れ出してはくれないかと願ったから、センヤが来たの……?)

「……そんなこと…あるわけ、ない、わよね…」

 自嘲気味に微笑むアサヒの赤い目から次々と涙が溢れ出す。

(どうして、涙がでるの?私は強いのに……弱くないのだから――)

 だから泣くことなどないのに


 ゴロゴロゴロ……

 雷の唸る音。
 次の瞬間、灰色の空が光る。
 いっそう、雨が激しくなった。

「雷……センヤ、大丈夫かしら?」

 立ち止まり、後ろを振り返る。
 誰かが来る気配は全くない。

(…今更、戻っても…気まずいし、おかしいわよね。…ごめんなさい)

 心の中で謝ったところでどうにもならないことは分かっている。
 だが、あんな風に去ることはなかったと、自分を責める。

 アサヒはぎゅっと拳を握ると、再び走りだした。
 どうすれば良いのか分からない悔しさに、冷たい雨の中を、森の入口に向かってただひたすらに走り続けた。

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あきゅろす。
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