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錆び付いた刃




この日は最初からおかしかった。




錆び付いた刃




普段呼び出しなどかかることはない良紀が上層部へ呼び出され、おいてきぼりにされたアヤナミからいつも以上にまがまがしいオーラが出ているのは苦しいながらなんとか理解出来なくもない。

そのせいで流石のヒュウガも大人しく席についていたということも……まぁ、五百歩くらい譲ればわからないこともない。(誰だって、仕事をサボったために命を落とすなんてゴメンだ。ダサい。ダサすぎる。)


じゃあ何がおかしいのか。




「あーやーたんっ♪」

「寄るな、不愉快だ。」



もうお分かりだろう。

呼び出しから戻ってからというもの、クールの代名詞・良紀がずっとこんな調子なのだ。
普段のヒュウガに負けず劣らずの過剰なスキンシップ。

ああ、なんて恐ろしい。

笑顔を零す良紀ですら少し前までとてもじゃないが考えられなかったというのに。
それを振り撒いて歩く(しかも抱き着く・はしゃぐ・甘えるの三拍子も揃っている)良紀なんて、正直恐怖さえ覚える。

「あ……アヤナミにワタシが嫌われた………」

「落ち込む良紀ちゃんもカワイー!!」

順応しているヒュウガについては元来どこかおかしいのだから割愛してしまおう。

傍らであまりのことに脳の処理が追い付かず固まっているコナツが正しいのだ。


「いい加減その姿は止めろ。――ニケ。」

「アハっ、やっぱり気付いてた?」

「もっと大人しくすべきだったな」

「つまーんなーいのっ」

駄々をこねながら良紀……もといニケの姿は光に包まれ、代わりにすらりと伸びた体躯が現れた。
性別は――わかりかねる。


「えー、良紀ちゃん本人じゃ絶対あんなことしてくれないから楽しかったのになぁ…」

「ヒュウガ。貴様には用事があったはずだろう。」

「ちぇっ、あんな爺さん達と顔合わせてたらこっちまで老いぼれちゃうよ」

「あ、だっ、駄目ですよ!少佐!あなたがまたサボったら今度こそ、アヤナミ様か良紀さんにしわ寄せが…!」

「んー……、良紀ちゃんのためか……なら、行こうかなぁ…」

「どうでもいいが、さっさと行け」


堪え切れずに漏れ出したようなクスクスという声。
それは、絶対零度のブリザードから逃れるように部屋を出ていった二人分の足音に紛れる。


「何が可笑しい」

「平和だなと思ってネ」


なおも堪えるように笑い続ける姿はどこと無く良紀と重なる。

「あぁ、ゴメン。コレ、良紀から移っちゃって」

君の大事なダイジな良紀チャンだものネ。
口角で孤を描いた顔からは妖艶ささえも感じられた。


「貴様は……、良紀は何者だ」

酷く腹が立つ。

「彼女はアテナそのものなのダよ」

芝居がかった動きに口調。目の前の存在すべてに。

「……どういう意味だ」

訳がわからない。

「そのままの意味さ。私もアテナがいないと力が出せナイからねェ。」

どうして私はこんなにもアレに固執するのか。

「人柱か…」
「フフ、失礼だナァ。良紀は自分から望んだというノに。」

それに気付いていようといまいと関係ないかのように、淡々と続ける。
実際、そんなこと気にも留めていないだろうし。

「力の代わりに、人間であることを棄てたダケのことでしょ。」

「先代のアテナはどうした」

「死んだ……いや、正しくは『-消滅-キえた』よ」

「神が死ぬ…?」

「神とは初めどこから産まれたかお前は知ってるカイ?」


楽しそうに歪める口元に嫌悪感以外何も思わない。


「神とは人の心から産まれるモノ。つまり………、人に忘れられるということは死を意味するんだよねぇ」

「あとはちょっと考えればワカルでしょ?良紀が有名になればナルほど彼女は戦いから永遠に離れられなくなる。それこそ、消えてしまうマデ……ネ」


シュンッ


振り抜いた刃に手応えは無く、空を切る音だけが虚しく響いた。


「困るなぁ、手を出されたら出したくなっちゃう。ミカエルにさえ封印されてた君がワタシに勝てる訳無いデしょ。」


ニケの姿はもう視界に映っていない。


「………自由に死ぬことの出来ない体…か。無様なものだな。私もお前達も。」


久しぶりに感情に任せて振った刃は何も捕らえることはなかった。

「情でも湧いたか、……笑わせる。」




≪curtainfall...≫




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"08/09/03





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