出せない一歩
「いやあああああああ、良紀ちゃんの人で無しいいいい!!!」
「身から出た錆。…じゃあアヤナミ、これで私にヒュウガの仕事が回ってくることはないよね?」
「ああ、ご苦労だった」
「ならよかった。ところで、仮眠室って今誰か使ってる?」
「それなら、クロユリ中佐が…。どこか他の隊で使ってないとこ当たってみましょうか?」
「いやいいよ、コナツ。別に寝たいって訳じゃなくて、場所が欲しかっただけだから。」
「…場所?」
「うん。最近ずっと時間無かったせいかニケがイマイチ言う事聞いてくれなくなっちゃって…」
「ということはメンテナンスに使う場所が欲しいって事ですね?」
「メンテナンス……ちょっと違うけどそんなとこかな…」
「そういう事ならここを使っても良い。今日はもう誰も来ない予定だ」
「ここ…此処かぁ……まぁいいか……。……ニケ、良いよね?」
「ワタシは出られるなら何処でも構わないけど?」
「「……っ!?」」
聞き慣れてるけど初めて聞く声に室内が一瞬にして凍り付いた。
「ちょっとそんなにケイカイしないでよ。一緒に闘った仲なのに傷つくワ」
「……勝手に『私』を使うなって何度言えばわかる?」
諌める音もやっぱり同じで、同一の形質から紡がれるせいで不可解極まりないことになっている。
「このほう面白いじゃない」
「全然。全く。微塵も。」
「可笑しな事には笑っておかないと笑えなくなっちゃうワよ?」
「不都合を感じたことは無いから別にいいけど」
「それじゃワタシが良くないのー!」
頬を横に伸ばされてもされるがまま。
あの良紀が大人しくされるがままになっているだけでも酷く珍しいというのに、加害者も被害者も同じ姿で同じ声。
そっくりなんていうものじゃない。いったい何が起きているんだろうか。
「良紀……さん…?」
「なに「ハイハーイ何の用かなコナツ君?」
「……ニケ。」
「いいじゃなイ、久しぶりの外なんだから少しくらいはしゃいだってぇ…まだまだ遊びたい年頃ナのよ?」
「歳なんてとってないくせに何を」
「遊びたい年頃のまんまって事よ!」
「……ハァ。」
心底呆れた様子で零す溜息には哀れみも込められていたのは一目瞭然で、いかに彼女とニケが噛み合っていないかが浮き彫りとなっていた。
「貴様が、『ニケ』か。」
「ドウモ、アヤナミ参謀長官殿」
不敵に口端を吊り上げて笑う姿は戦場でのそれと重なった。
「ただの武器、ではないな」
「ソレについては参謀長官殿が見たとーリ」
「何故あの形をとっている」
「彼女がそれを望んだカラ」
「貴様を良紀が手にしたのはいつだ」
「レディの過去を無神経に荒らすのは感心出来ないワね」
「答えろ」
「……だそうよ、良紀。どうする?」
「……。」
怒りも焦りも何も浮かんではいない。
「…しらない。」
「……良紀さん…?」
振り出しに戻るとはこのコトだろう。
寧ろ、これまでの道のりなどは全てが錯覚で、実のところ何も無かったのだと言われても黙って受けとらざるをえないものだったとも言える。
「行こう、ニケ。」
「ハイハイ。参謀部直属部隊の皆サン、“急いては事をし損じる”――覚えておいて損は無いと思いマスよ」
出せない一歩
閉じる扉に阻まれ、良く知っていた筈の後ろ姿と、形を変えて後を追う背中を目で追いかけることすら叶わなかった。
≪curtainfall...≫
実はYMC以上に趣味を詰め込みまくってます←
会話文多いなぁ……。気をつけなきゃ。
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