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満たすアナタ /キスイチ(脱色)
(クリスマス小説)

 イヴの夜。いや、後1時間足らずでイヴも終わりをつげる頃、一護はコートとマフラーを手に取り一人家を出た。
 別に何処へ行こうと思ったわけではない、何をしようと思ったわけでもない。
ただ何となく…。
 マフラーに顔を埋め、コートのポケットに手を突っ込んで歩きながら一護は今日のパーティの事を思い返していた。

 親父がうるせぇのは毎年のことだが(しかもいつも可笑しな格好しやがる)、それにしても今年は賑やかだった気がする。
 ちょっとだけですぐに行っちまったヤツらもいたけど、結構な人数が来た気がする。
 たつきん家はいつも何かしら差し入れをくれる。遊子が料理できることはたつきのおふくろさんも知ってるが、プレゼントと一緒に毎年たつきに持たせてよこす。遊子も夏梨もそれを喜んでる。そのお返しにって親父もたつきにプレゼントをやるんだが、これがもらっても全然嬉しくねぇ、いや、むしろ迷惑なもんばっか…わりーなたつき…。
 そのたつきと一緒に今年は井上も来てくれた。井上は相当はしゃいでたな、好きそうだもんな、こういうの。
 その井上ん家でクラスの女子たちはパーティしようとしてたらしく、その前にたつきが俺ん家寄るってんで、井上の提案で一回俺ん家に寄ろうって事になったらしい。
 水色と啓吾もチャドを連れて3人で来てくれた。啓吾のヤツは女子がいると分かるや否や俺に掴みかかってきやがって、グッジョブとか言いやがるしよ…なんであいつはああなんだ。
 あぁ、あと道でばったり会った井上に無理やり連れてこられた石田もいたな。あんま感情が見えねぇヤツだけどそんなに嫌そうではなかった(と思う)からそのままほっといた。たまに話しはしたが。
 あとは遊子や夏梨の友達が来たり観音寺のオッサンが乱入してきたりでホント騒がしかったぜ。つーか観音寺のオッサンは何で家に来るんだよ…。
 まぁ、遊子も夏梨も(ついでに親父も)楽しんでたみたいで良かったぜ。

 今日のことを思い返しながら歩いていた一護は丘の上の小さな公園にいた。
 公園といってもブランコとベンチがあるだけの殺風景な場所だ。
 一護はその丘から空座の街を見おろした。

「……」

 みんなが来てくれて今日は本当に楽しかった。なのにナゼがもの足りない気がする。もの足りなさを感じる。
 突っ立つ一護の後ろから冷たい風が吹き付けた。
 片方落ちたマフラーを直そうとした時、一護は背後に人の気配を感じた。
 振り返るとそこには、この寒い中ありえない格好で立っている男がいた。

「こんばんは、黒崎さん」

 男は何事もないかのように笑顔であいさつをしてきた。
 一護は言葉を失っていた。
 男は一護の方へと歩み寄ってくる。
 男がすぐ側まで来たところで一護はやっと言葉が出た。

「あ、あんた何て格好してんだよ!風邪ひくぞ!てか、何でこんなとこに!」
「何でって、いつまでたっても黒崎さんが来てくれないからじゃないっスか」
「え」
「ご家族とのパーティがあるでしょうし、それまでは待ちましたが、いつまでたっても来てくれないのでアタシの方から来ちゃいました」
「何で俺がここにいるって・・・」
「愛の力です」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ」
「バカなのは黒崎さんですよ」
「はあ!何で俺が!」
「石田さんに言われませんでした?あなたの霊力は垂れ流しだって」
「ほっとけ!」

 こんなバカげた話しをしているのにナゼか心が安らいでいく、暖まっていく、満たされていく…。
 一護は気が付いた。これか、俺が感じていたもの足りなさは…。
 一護はそのまま目の前に立っている浦原に抱きついた。

「どうしました?黒崎さん。やけに積極的ですね」
「うるせぇ…」

 浦原の胸に顔を埋めたまま一護が言うと、浦原も笑って一護を抱きしめてやった。

「そろそろイヴも終わりですね。黒崎さんはサンタさんに何を頼んだんですか?」
「ガキじゃあるまいし」
「そうですか。アタシは頼みましたよ」
「いい年して何してんだよ、あんた」
「黒崎さんです」
「は?」
「アタシは黒崎さんが欲しいとサンタさんにお願いしました」

 一護は、アホかぁ!と浦原を押し飛ばし、また街を見おろした。
 浦原は後ろから一護をそっと抱きしめてやる。
 一護は小さな声で何かを言った。

「? え、何ですか?」
「だから、俺はもうあんたのもんだし、あんたはもう俺のもんだろ…」
「……」
「な、なんか言えよ!」
「はい、そーっスね」

 そう答えた浦原の笑顔を見て一護は何も言えなくなった。
 2人だけの時間が流れていく…

「一護…」
「え」
「メリークリスマス」
「あ…」

 2人が唇を重ね合わせた時、丁度日付が変わっていた。



end...

あとがき


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